ふしぎラビリンス8~翼宿の故郷~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「上出来やわ~……」
その声は全てを着終わったあとに吐息とともに呟かれた。目の前でほわんとした顔が向けられる。
「あ、ありがとう……ございました」
なんと言ったらいいのか。
今、私は愛瞳さんの私物を全て借りている。
上から下まで………中まで。
「見せにいこかっ!!」
「え゙……」
誰に?なんて言わなくてもわかる。
でもウキウキとした顔を目の当たりにしては、嫌と言えない。
なんせ……翼宿のお姉さんなのだから。
「……はい……」
仕方ない。
笑われにでもいくか、そう思った時だった。
外が騒がしくなった。
「な、なんなん!?」
「少し見てきます!!」
「あっ、ちょお……待って……!」
戸惑う声を残し、外へと飛び出た。
女性の悲鳴も子供の泣き叫ぶ声も聞こえた。何かある。
外へ出ると逃げ惑う村人が目に入る。
「翼宿!井宿!!何があった!?」
同じように家から飛び出てきたのだろう、彼らに声をかける。
振り向いて目が合うと、その三白眼の目が更に見開かれた。
「お前……南央か?」
「は?当たり前じゃん!」
「見違えたのだー」
「あ、ああ、服ね!お姉さん、いいの貸してくれた!」
2人の傍に近寄るも、未だに視線が外れない。
さすがに息が詰まる。
「……見すぎ!珍しいからってさ」
「しゃあないやん。女に見えるで」
……元から女ではあるんだけどな。
思わず悪態をつきそうになる。
でも、この服を貸してくれた愛瞳さんのせっかくの好意が無駄になるような気がして……思いとどまった。
「それよりも何の騒ぎだよ?」
「あ、ああ……現れよった」
サッと顔色が変わった。
“現れた”
それだけで何が現れたのか察しがつく。
「オイラと翼宿で見てくるのだ。君は中に」
「私も行くよ!!」
「アホ。なんで来んねん」
「戦えるからだ!!」
「……怖がっとうくせに……オレがわからんと思っとるんか」
「っ………」
ぐ、と言葉が詰まる。
短剣に伸ばした手が僅かに震えているのがバレたのだろうか。
「こう言ったらわかってくれるのだ?」
「え?」
「君に彼女を任せたい。それに、君以上にこの状況を不安に思っている人は沢山いるのだ」
そうやって言われながら、井宿が目線を向ける先を見た。
「あ、愛瞳さん……」
家の中からこちらを見ている。すごく、怯えた顔をして。
「………わかった」
私が頷き答えると、翼宿がくしゃりと頭に手を置いてきた。
「姉ちゃんとおかん、頼んだで」
「……お父さんもだろ」
「あー、そやった」
可哀相に。
すっかり存在を忘れられている。
「翼宿、行くのだ。あいつをのさばらせておくわけにもいかない」
「せやな」
翼宿の手がふ、と離れた。
何故だろう。
今……無性にその手が離れるのが……嫌だ。
「翼宿っ」
「あ?」
思わずその手を掴んだ。
………どうしてだ?
「どないした?」
「………いや……なんでも、ない」
ほんとに、何でもないはずだ。
そっと手を離す。今度はちゃんと離せた。
「ごめん」
「なんやねん」
顔が見れなくて視線を落とした。
そのまま行ってくれるといい。そう思った。
でもまた頭に手が置かれた。
「帰ったら、酒……はいかんか。茶ぁ淹れてくれへん?」
「は?」
「今のお前に淹れてもろたら、美味いやろなー思てな」
「……は、ぁあ?」
マヌケな声が出てしまった。
でも、ニカッと笑う翼宿を見たら……ザワついた心が治まった。
「いいよ。早く帰ってきてよ」
2人の姿が暗闇に溶け込んでいく。
ドキドキするのは何故だろう。
胸騒ぎ……。
これがそうだとしたら……何が起こるのだろう。
それでも私には課せられたことがある。
「愛瞳さん!」
「っ……南央ちゃん」
怯えて、私の服を掴む彼女の肩を抱き寄せた。
「大丈夫。私がついてます」
私が、ここを守ってみせる。