ふしぎラビリンス8~翼宿の故郷~
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「あんたら、ちょお座り!!」
「なんでオレらが……!」
「ええから、座りぃ!!!」
風呂から追い出された翼宿と井宿は、愛瞳さんに床に座らせるように命じられた。
私たちはしっかりお湯につからせてもらった後だ。
姉の気迫には勝てないようで、翼宿が渋々座るとその横に井宿も座り込む。
ああ、なんだろう。よくない雰囲気だ。
「あ、あの……愛瞳さん、落ち着いて」
「あかんよ!南央ちゃん、あかん!あんた、裸見られとんのやで!?」
その言葉にすぐに翼宿が食ってかかる。
「見とらん!!すぐに井宿が閉めよったからな!!」
あの扉が勝手に閉まったのは井宿だったのか。
痛かったんだよね、当たった時は。
「……君が確認もなく入ってくるのが……」
「そこぉ!!女のコのせいにしたらあかんで!!」
「っ……す、すまないのだ……」
さすがの井宿もタジタジだ。
ああ、なんか可哀想になってきた。
「あんたもあんたやで?もっと怒ってもええんよ?」
「えっ……いやー……別に気にならないというか……」
「嘘やん……!!!」
そんなに驚かれることを言ったのだろうか。
気にならない。別に。
男だったらよかったのに、と思っていたこともあるくらいだし、山では男ばかり見ていたし。
「俊宇!!あんたの責任やで!!」
「なんでェ!?なんでオレなん!?」
「ここまで男のコに染めてもうて……どないすんねん!」
「うっ……」
背丈の差や体格の差があるはずなのに、今は翼宿が小さく見える。
「愛瞳さん、いいんですよ。私、こんな見てくれですし、もう女としては終わってるというか……男として生きてもいいんじゃないかなーって」
「終わってへん!!」
「え……」
「終わってへんで!!女に生まれたからにはずっと女や!!南央ちゃん、あんたええ女なんやで!?」
「愛、瞳さん……」
「姉ちゃん、ええ事ゆうやん」
「だっ」
口々に褒め言葉をいうと、彼女もまた満足そうに笑った。
「あんた、ホンマはもっと女のコらしいんとちゃう?」
「え?」
「おいで。あんたに思い出させちゃるよ。ちゃんと服着て、髪も整えよう?」
服と、髪……。
そう言えば髪も随分と伸びた。
「南央ちゃん、山の暮らしは過ごしやすかったん?」
庭先で椅子に座らせられる。
「はい。すごく居心地良かったです」
「そっかぁ。そんでも……これからはちゃーんと女のコになり?」
「ならなきゃ、ダメですか」
愛瞳さんの手が私の髪に触れてくる。
「女の自分は嫌なん?」
「……そういうわけでは……でも、今は強くなりたい。そういう点では……邪魔です」
ジョキジョキと耳元で髪が切られ、整っていく。
「女でも強くなれるんよ」
「どんな時に?」
「誰かを、好きになった時に」
「好きに……好きな人ならいます」
「おるん!?」
思わず手が止まる。みんなこれ言うと驚くなぁ。
「いますよ。ずっと……好きなんです。ああ、その人のおかげでまた女らしくなろうとした時がありました」
「ええことやん!」
「でも……ここに来て、それじゃダメだって。男ってだけで力が強いのが羨ましくって」
「……そんなん、どうしようもないことやん」
それは、わかる。ずっと夢を見る女だったんだ。
淡い期待をした時もある。
でも……そんなことは言ってられなくて。
この世界で生きていくためには、これからを思えば、甘い考えは持ってはいけない。
でも、このままなら……。
「好きな人には会えないと思っていたけど……もうすぐ、その好きな人に会えるかも知れません」
「そうなん?」
「きっと、このままなら……」
髪が綺麗に切りそろえられた。結ぶことも出来る長さだ。
「さ、次は服やで」
「でも……」
「好きな人に会えるかもしれへんなら、綺麗にしてへんと見てもらえんよ?」
「……そっか。そうですね」
この服のままでは、きっと傍にも寄れない。
「あたしのやけど、きっと南央ちゃんにも似合うのあると思うで。着てみよか?」
「………はい。お願いします」
少しだけ思い出してみようか。
あの人に変な姿は見せられない。