ふしぎラビリンス8~翼宿の故郷~
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「ねえ………まだ、かな?」
「もうちょいやな」
「………嘘だろ」
「なんで嘘言わなあかんねん」
「だってさ、朝から歩いてさ………もう、昼になるんだけど」
「あ?もうそないなん?」
「確かに腹が減ってきたのだ。ご飯にするのだ?」
そう言いながら2人の視線が私に向けられる。
「……はいはい、作りますよ。翼宿、火!」
「飯が食えるんなら安い用やでー!」
「………単純だなー」
「なんか言うたか?」
「なんでもありませーん!」
かれこれ数時間もかけて歩いている。
ほんとにナメてちゃだめだな。体力ついたと思っていたのに、まだまだ足腰は弱いらしい。
“山道を歩くのと、剣を振るのでは使う筋肉が違うのだ”
そう井宿は言ってくれたけれど、ここまで使い物にならないとは思っていなかった。
軽めの昼を取るとまた歩く。
歩く。
歩く。
ひたすら歩く。
「…………遠いわぁあーーーーー!!!」
「おわっ!?なんやねん、いきなし叫びおって」
「ははっ、とうとう怒ったのだー」
うがぁぁぁぁ、と叫びたくもなる。
前方には“こんなの普通”とばかりにたまに談笑さえもしながら歩く男共の姿。
そうか、私が変なのか、とついて歩いたものの、これはもうこの距離が異常なんだ。
「なんで歩きなんだ。文明機器がないのはもう慣れたけれど……これは嫌だ」
「何ブツブツ言うとんねん。そない言うとるうちについたで」
「えっ?ほんと?」
つい目を輝かせて顔をパッと持ち上げた。
翼宿がジトー、と見てくる。
「お前がついてきたいて言う……」
「ほらほら!行こう!!」
ついたのなら話は別だ。確かに前方には家々が見えてきた。
「翼宿の故郷、ついたー!」
「……別にオモロイもんなんてないんやけどな」
そんなのどうだっていいさ!なかなか来られるものでもないんだ。
この先、大変なことが起こるにしても、ぜひとも翼宿の家族に会ってみたいというものだ。
翼宿は1軒の家に向かって歩く。
「あの家?」
「そや。特にこの辺は何ともないみたいやな」
「無事で何よりなのだ」
人が行き交う中、通り過ぎる人々が翼宿を見ては振り返っていく。
そしてついに、声をかけられた。
「候家んとこの……俊宇やないか?」
「おー!!おっちゃん!!」
「やっぱり俊宇やったんかー!!」
翼宿が声に反応して陽気に声を上げる。
その互いにでかい声を聞いて、ワラワラと人が集まり出した。
「え、何この人だかり」
「だぁ……そのすごい人気っぷりなのだ」
あまりの人垣に私と井宿は圧倒された。
「しばらく落ち着くまで離れているのだ」
井宿がパシッと手を掴んできた。そのままズルズルと脇に連れていかれる。
ここからだと群がられている翼宿がよく見えた。
「どこにいても翼宿のまわりには人がいるんだよなー」
「そのようなのだ。翼宿という人となりを知れば人は自ずと集まってくるのだ」
「顔が怖くても集まってくるんだね」
「ははっ、オイラでも言わなかったことをさらっと言ったのだー」
井宿は苦笑する。その顔をマジマジと見た。
のっぺりとした顔。これはお面。
横から見たとしても境界線なんてないくらいに自然だ。
「井宿もいい奴だね」
「何を突然……」
「なんだかんだと翼宿についてきたじゃん」
「それは君が暇だからと無理やり……でも、君たち2人だけでは危なっかしい。ついてきてよかったのだ」
「なんだよ。私だって大人だからな!」
「よく言うのだ~」
前方で囲まれていた翼宿が彼らに手を振ってこちらに来る。井宿もそれに気づいて歩き出した。
「ほんと、2、3コしか年変わらないんだから……もっと頼ってもらえるようになったら嬉しいな」
この言葉は聞こえなかっただろう。
頼ってもらえるほど私は強くない。
もっと力をつけなくては……認められない。
前にいる翼宿と井宿を見る。
今はあんなにも離れているけれど……いつか、横に並びたい。
並んで、同じものを見たい。