ふしぎラビリンス7~約束~
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静かな夜だった。
傍では木にもたれかかるように翼宿と井宿が目を閉じて眠っている。
そっと起き上がると、その場から離れた。
少し歩くと見晴らしのいい場所に出た。
今私たちは高いところまで登っていたようだ。月明かりに照らされて山の向こうの景色が見える。
「……このままじゃ、ダメだ……」
独り言のように呟いた。自分の手のひらを胸の高さまで持ち上げて見てみる。
すでに私には旺牙の力はあるはずだ。
だったらそれで戦えばいいだけなのに……できなかったのは……。
「使った後の反動が、怖いって言うわけ?」
自問自答。
怖いなんて感情が生まれるのか。それを恐れて使わずにいるって?
思わず自嘲気味に笑った。
「1人でうろつくな言うたやろ」
「!?」
パッと短剣に手を伸ばしながら振り向いた。
「アホ。オレやっちゅうねん。いつまでそうするつもりや」
「翼宿……ごめん。起こしちゃったのか」
「お前が起きてどっか行くくらいわかるで。井宿だって起きとる」
……え。
せっかく静かに起こさないようにって気を使ったのに無意味だったのか。
「何しとったん?」
「……別に。ちょっと目が覚めて」
「お前、今日1日ずっと気ぃ張ってそんな調子やん。寝れんはずないで。疲れとるはずや」
それはわかる。ドッとくる疲労感。
それはあるのになぜか……眠れない。
「周りが気になって……」
こんなことは初めてでこんなにも神経を使うほど、周りを気にすることもなかった。
「あいつもそうやったで」
「………え?」
「屋敷に連れ帰ったはよかってんけど、あいつ、誰にも気を許さんかったんや」
あいつ、というのは旺牙のことだとすぐにわかった。
「黙って背後に立とうもんなら、あいつはすぐに剣を抜いてきよってな」
「………無茶苦茶じゃん」
「せや。手に負えんくらいあいつは一匹狼やった。今のお前もそんな感じや」
「……………」
翼宿が一歩、歩み寄る。
「なあ、南央。疲れるやろ」
また、一歩。
「お前の間合いに入れたら、お前も気を許してくれるんか?」
ハッとした時には、ゆっくり歩み寄ってきた翼宿の足が素早く動く。
あっという間に間近に、いや、翼宿の腕に包み込まれた。
「え………?」
「よっしゃ、入れたで」
「なに………えっ?」
意味がわからない。なんで今、抱きしめられてるんだ?
「オレが近づく感じ、お前ならすぐに覚えるやろ。さっさと覚えぇ。一々ビクつかれたら堪らんで」
耳元にかかる声。
これは、現実?抱きしめ……られてる?
「お?なんや、力抜けたな。やっぱそれもあいつとおんなじやな」
「……もしかして、さ……これ、旺牙にもした?」
「したで?羽交い締めにしたった」
「………………………………」
ああ、なんだ。
これは羽交い締めか。そうだ。そうだな。
そう思うなら、まあこれはこれでありかも知れない。人のぬくもりはこんなにも心が安らぐのか。
「………うん、なんか落ち着いてきた」
「そか?」
翼宿の満足そうな顔も伝わってくるようだ。
うん。恐れるな。
この人を護れるのなら……剣を握れ。
「ありがと。翼宿」
翼宿の気。
その“気”を覚えるかのように、翼宿の体に腕を回した。
「………おう」
一呼吸くらい間があったあと、翼宿はポンポンと頭を叩いて体を離した。
「戻ろか?」
「そだね。眠くなってきた」
「単純なヤツや」
「……翼宿に言われたら、ダメな気がする」
「どない意味やねん」
「………ううん、何でもない」
元の場所まで戻れば、確かに井宿も木に背をあずけて起きていた。
「待ちくたびれたのだ」
そうボヤキにも聞こえなくもない声を出しながらも、井宿がトントンと地面を叩く。
「早く寝るのだ」
「せや。明日も歩くんやった」
「まだまだ遠い?」
「結構あんで」
「…………寝る」
すかさず井宿の隣に座り込むと、また外套にくるまって目を閉じた。
「明日はちゃんと家で寝せるさかいな」
夢の世界に入りそうになる頃、そう、聞こえたような気がした。