ふしぎラビリンス7~約束~
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「南央、翼宿の荷物から出して欲しいものがあるのだ」
元の場所まで翼宿を連れて戻ると、井宿はそう口にした。その言葉を聞いて、翼宿が焦り始める。
「な、なんで知っとるんや?」
「翼宿のことなのだ。どうせ少しくらいと持ってきているのだ」
「あれはやなあ、オレの道中の楽しみなんや!使わせんで!」
何の会話だ。
私にはよくわからないことを言い始め、言われた通り翼宿の荷物を調べ始めた。
「あ、あかん!!南央に触らすな!!」
その時には私の手には瓶が握られていて、これ?と井宿に言おうもんなら、そこから僅かに漂ってくる香り。
あ、これお酒じゃん。
「井宿、そいつ下戸やねん!!ぶっ倒れるで!」
「だ?」
井宿が思わず駆け寄ってくる。私から瓶を受け取ると、顔色を伺ってきた。
「酔いやすいのだ?」
「……たぶん」
「それはすまなかったのだ。大丈夫なのだ?」
「うん、今のところ」
あ、今、井宿……ホッとした。
うん。大丈夫そうだ。外だし小さな瓶だし、そんな嗅がなかったから。
「それ、どうするの?」
「傷の消毒をするのだ。手伝ってもらおうかと思ったのだが……無理そうなのだ」
「手伝い?手伝いがいるならやるよ!!」
そうだ。私が声をかけて意識を削がせたせいで怪我を負ったのも同然だ。
ぼうっとしている場合じゃない。
「アホ。お前は離れとけ」
「そうは言うが、堪えられるのだ?彼女に吹きかけてもらってオイラが押さえつけておこうかと思ったのだ」
「バカにしとんやないで」
「ならば、じっとしておくのだ」
「わぁっとる。……せやけどちょっとだけ使えや!?ええか!ちっとやで!!」
「……この後に及んで酒の心配なのだ?……そんな余裕、言ってられないのだ。しみるぞ」
「……………早う、せえ……」
これは……今からあのお酒で消毒するつもりなんだ。
しみる……と井宿は言っていた。それに翼宿だって体をこわばらせている。あの翼宿が。
「南央、お前は風上に立っとれ」
こんな時でも私を気遣うって?そんな、強ばった顔で?
私が風上に移動すると、井宿は酒を口に含んだ。それを一気に翼宿の腕に吹き掛ける。
すぐさま翼宿の体はビクリと震えた。
「……もう一度なのだ」
「くそっ……たれがぁ……」
翼宿の顔が痛みに歪む。思わず顔を背けてしまうほど痛いんだ。
本当は腕を引っ込めたいはずなのに、井宿の前にぐっと差し出したままだった。
井宿がもう一度吹き掛けた。
「つぅッ………!!」
「おしまいなのだ」
「…………………ほらな、動かへんかったやろ」
「………涙目で言われても……」
「やかましいわ!!」
2人の飛び交う言葉を聞けば、ここで何か一言二言、口の悪さを発揮させればいつも通りなはず。
なのに……。
一連の流れを見ていて、私の体が小刻みに震えだした。
私は一体何をしているのか。今、私は何をさせてしまったのか。
敏感に感じ取れる感覚があるのに動けなかった。
力を得たのに……これでは意味が無いじゃないか………っ!
奥歯を自然と噛み締めた。
こんなことは……二度とさせない。
させてたらダメだ。