ふしぎラビリンス7~約束~
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翼宿が離れて、私は1人パチパチと音を立てて燃える枝を見ていた。もうあたりはすっかり暗くなっている。
こうなると神経が敏感になって仕方がない。
初めての場所、久しぶりの1人。そして……あまりにも静かな空間。
ピリピリと五感が働く。
「誰だっ!?」
ふいに何かが近づいてくる気配に、バっと立ち上がって短剣を構えた。
「オイラなのだ!」
暗闇の中から、聞き馴染んできた少し高めの声が聞こえた。
「井宿?」
「だ。気配を頼りに来てみたが君1人なのだ?」
月明かりの下に出てくると、井宿は周りを見た。
「翼宿なら食べ物探しに行ったよ。井宿こそ遅かったね」
「ああ、これを手に入れてきたのだ」
「ん?」
なんだろうと思っていたら、何かを目の前で広げた。ふわっと頭上を超えると、それは私の肩に掛けられた。
「これ、外套?」
「君は旅には慣れていないようなのだ」
「そりゃ……初めてだけど」
「それでよく付いてくると……」
「無謀だった?」
少しおどけて見せた。
井宿は困ったように、手にした荷物を私の前に置いた。
「私にも……用意してくれるんだ」
「だ?」
「ううん。なんでもないよ」
今、目の前にいる人こそ、ここの世界の井宿。思いを改めて与えてくれたものを手に取ると、必要そうなものが揃っていて更にありがたみを感じた。
「ありがとね、井宿」
「……………」
「なにさ、変な顔して」
「素直すぎて気味が悪いのだ」
「ちょっと!!」
ーーーーー。
「「!!」」
瞬時に五感が働いた。それは井宿も同じだったようで当たりを警戒している。
「井宿……」
「だ。翼宿が……遅すぎるのだ」
遅すぎる。
そう呟かれた時には、私は暗闇の中へ駆け出していた。
確かにいくら何でも遅い。嫌な予感しかしない。
こんなに息が上がらずに走れるのは、これも旺牙のおかげなのだろうか。
それに……五感が研ぎ澄まされている。
あいつはいつもこの感覚の中で過ごしていたのか。
「おんどれ………しつこいねん!!」
翼宿は案の定、化け物と戦っていた。
鉄扇を振り炎を出すものの、そいつは身を翻して避ける。
「翼宿!!」
「は!?南央……なんで来とんねん!!」
私の声に驚いて振り返る。
その隙を見逃さない化け物は、大きな口を開けて翼宿に襲いかかる。
「翼宿!後ろ!!」
「チッ……」
翼宿と化け物の距離が近い。一度はかわしたけれど、思っている以上に機敏に動く化け物に間合いを詰められた。
今度は避けるにはあまりに……近かった。
「ぐっ……」
化け物の口が、翼宿の腕にかぶりつく。
「翼宿!!!」
「破っ!!!」
後ろから眩い光が化け物に向かっていった。
その衝撃に化け物が雄叫びを挙げて散り散りに消えた。
「大丈夫!?」
「……平気や。井宿、すまんな。助かったで」
「大丈夫なのだ?……いや、大丈夫そうじゃないのだ」
翼宿に駆け寄ると、腕から血が滴り落ちている。
それを目の当たりにした瞬間、息ができなくなった。
一体、私は何をしていたのだろう。
私は……足枷には決してならないようにしようとしていたのに……。
なんてザマだ。
「一旦あの場所に戻るのだ。翼宿の手当をしなくては……」
「こんなん、どうってことないで」
「……強がりたいのもわからなくはないのだ。だが、今しか出来ないと思うのだ」
「…………どういう意味や」
翼宿が怪訝そうに井宿を見る。
井宿は手元に置かれてあった錫杖を握り直すと、元来た道を歩き出した。