ふしぎラビリンス7~約束~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「井宿、遅くない?」
「すぐ追いつくやろ。あいつなら」
「そっか」
屋敷を出たというのに、まだ井宿は合流しなかった。
何をしてるのか検討もつかない。気にはなるものの、確かに井宿ならすぐに追いつけるのだろう。
山道を翼宿の後ろをついて歩いた。
今は下りが続いていて、比較的速度が早くなる。
「そんでお前、変化はないんか」
「変化?」
「昨日、旺牙の……もろたやん」
“旺牙の”と言われて、思い当たることを伝えた。
「あーそうだな。周りで動くものが気になって仕方がないかも」
「旺牙は先の動き詠んで動くさかいな。痺れはどうや?」
「まだちゃんと剣を振ったわけじゃないから……どうかな。旺牙とは毎日剣を交えてたから、案外対処できるかもしれない」
「毎日……」
翼宿の呟きは耳には届かず、私は短剣に触れる。
「絶対に、使いこなしてみせるよ」
「……………」
そう呟くと、翼宿は少しだけ私を見て、また前を向いて歩いた。
「今日はこの辺で野宿や。平気か?」
「もちろん!」
正直、浮かれていた。
久しぶりの外、変わりゆく景色。こんなにも遠くまで歩いたのは久しぶりだ。
「何か食べ物探して……」
「ちょい待ち」
獲物や食べられる木の実でも探しに行こうとした。
すると私の手は、翼宿の手に掴まれた。
「え?何?」
「山のひとり歩きはさせられへん。火ィ起こしたるさかい、お前はここにおるんや」
「でも手分けした方がよくない?」
「あかん」
ぎゅ、と手に力が込められる。そうされてしまえば嫌とはいえない。
「ホンマならここに1人にさせるんも……あかん」
「翼宿……どしたのさ。いきなり過保護?」
ぷ、と吹き出してしまう。それだけとても違和感がある。
「お前はオレを護る言うとったけどな」
「うん。旺牙との約束だもん」
手にまた力が込められる。
なんだよこいつら。手首掴むの癖なのか?
思っていたよりもすっぽり握られたことに、つい目が手首に向く。
だから……翼宿の顔を見ていなかった。
「オレは……お前に護られなあかんほど、弱ないねん。お前を連れてく決めた以上、オレはお前も護るて決めたんや」
………お前も護るって、決めた……?
振り落ちてくる声に息が止まった。
今、なんて言われたんだ?護る……?
翼宿が言ったの?いつか、こんな私にも言ってくれる人がいるのなら……そう願っていた言葉。
パッと顔を上げると真剣な顔があった。
思わずその顔を凝視してしまう。
「………なんや」
「“お前を護る”って……初めて言われた……」
「……………オレもよう言わへんで」
よう言わないことを言ってくれたの?
ああ……周りが暗くなりつつあってよかった。
顔が緩みそうだ。できるだけいつも通りにしないと。
これはただの強い正義感からの言葉なのだろうから。
「だよね。言う印象ないよ?めっずらしー!」
言えた?
普通に、言えた?
「………そないなことオレがようわかっとる。もうええからそこおり!!烈火、神焔!!」
翼宿が手を離して鉄扇を軽くひと振りした。
ボッと集められた小枝に火がつく。
「ええか。ここにおれよ」
「ん。わかった」
素直に頷く。
この世界に来て頭としての翼宿を見てきた。その頭としての翼宿を慕う彼らも見てきた。
翼宿の言葉は絶対。
それが私の中でも定着していた。