ふしぎラビリンス7~約束~
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「山……に、置いとけないって……」
声が震え出す。言葉を発したいのに、その言葉が声にならない。
「なん……なんでっ、何がだめ……」
「ちゃう。いらん気を回すなや。お前を連れてく、言うとるんや」
「……………え?」
「ここにおったら、どっちにもええことないからな」
「それが賢明なのだ、翼宿」
「せやろ」
どういう……これはどういう事なんだろう。
「……意味、わかんない」
「わからんか。ちぃと、ここに居すぎてしもたな」
「こんなむさ苦しい場所で女のコを住まわせるからいけないのだ」
「悪う思とる。せやかてこいつ、違和感あらへんのやもん。あいつらにも臆さへん」
「それでも女のコなのだ」
つまりは追い出されるわけではなくて、私は翼宿について行っていいって事?
それなら旺牙は?旺牙はどうなる?
当の本人に目をやれば、今の状況をうまく呑み込めずにいる。
「頭……俺の処分の言い渡しは……」
「あ?あー……忘れとった」
忘れてたぁ!?
翼宿があっけらかんと口に出せば、隣で井宿が吹き出して笑った。
「翼宿、それくらいにするのだ。素直な者をオモチャにするのは感心しないのだ」
「そか?こいつらおもろいねん」
「か、頭?」
「あんなぁ、旺牙。お前を追い出すつもりないねん」
「……そないなことでは示しが……」
「困るんや。お前追い出したらオレは攻児まで追い出さなアカンくなるんやで?」
「副頭?副頭をなぜ……」
「あいつ、下心ありまくりやったからな」
…………うん?
「水飲ませるんとか初めて見たで。お前は特別なんやと」
え?
翼宿が困ったように頭を掻いて、井宿は笑みを増す。
「オレは一度に2人も追い出さなアカンの嫌やわ」
「頭……!」
「オレはお前のことも手放せん。せやからこのことは南央に任せるわ」
いきなり白羽の矢が立つ。一気に視線がこちらに来た。
「なん、で……私?」
「攻児のときも許しとるやん」
「別に許すも許さないも……水飲ませてくれただけだし。助かったし」
そう言うとどうやら求めていた答えだったらしく翼宿は笑った。でもどこか複雑そうな顔にも見えた。
「ほな、旺牙はどうや?」
「旺牙は……」
自分の代わりに頭を頼むと言った。あれは、ついていけない旺牙の代わりに翼宿を護ってほしいという気持ちからだと思う。
だったら……。
「旺牙は私に情けをかけてくれたんだと思う」
「……なんだそれ……あんたは的はずれなことばっかりだ」
旺牙が俯く。いつもより生気を感じられない。
そんな旺牙なんて……いやだ。
私は旺牙の前にしゃがみこむと、その顔をベチンと両手で挟んだ。呆気に取られている旺牙を真正面から見据えた。
「……なに、する……」
「旺牙、言ったよな。使いこなしてみろって」
「それが、なんだ……放せ」
私の手を無造作に引き離す。
「使いこなしてやる。ここに帰ってきて一番に見せつけてやる。なのに帰ってきても旺牙がいなかったら見せられない!」
「……………」
「旺牙はここに残るべきだ!翼宿は私がちゃんと連れて帰るから、あんたはここでここを護ってろよ!!」
そこに翼宿が旺牙の剣を持って近づいてきた。
「よう言うたで南央」
「翼宿……旺牙、追い出さないよね?」
「出さへんて」
よかった。
旺牙は翼宿に深く頭を下げた。翼宿は旺牙に剣を差し出す。
旺牙は、今一度、改めて誓いを立てるかのように、翼宿から剣を受け取った。