ふしぎラビリンス5~決意~
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翼宿が手を離す頃には、もう攻児も旺牙もいなかった。そこには私と翼宿だけだった。
「あとのことはオレらに任せとき。お前は少し……」
「………化け物、これから増えるよ」
「なんやて?」
私はぐしぐしと目を袖で拭うと、翼宿を見た。
「翼宿……私、太極山に行きたい」
「は、あ!?」
事態は深刻なはずだ。
このままじっと美朱を待つこともない。
先に……先に動けるものなら……。
「アホ。どないやって行くねん。どえらいとこにあんねんぞ。……お前が知っとるんのもなんでや」
「……美朱がしてきたことは知ってるって言ったじゃん」
「そりゃ……聞いたけんど……」
それでもちゃんとした事は言えてなかった。
翼宿は今も、美朱の友達くらいとしか思っていない。
「ねえ、あの人がいたら……連れていってくれるんじゃない?」
「お前……」
翼宿が言葉を失う。
じ……とそ三白眼が鋭く見てきた。
「井宿のこと言うとるんか……?」
「そう」
「あいつは旅に出てしもて、もう1年以上会うとらんで」
「それでもきっとすぐに気づいてくれるよ」
「なんでそない言いきれるんや」
ふと脳裏に思い浮かべる。
ここに来る前まで、がっつり読んで覚えていた彼。
そうだ、確かあの人は……。
「実はすごい人なんでしょ?思慮深くて、嫉妬とかもして、なんかメチャクチャ攻める人で……怒ると怖い」
「……そいつ、井宿ちゃうな」
「へ?違う?」
あ……そうだ。
あれは“作られた話”だった。
「あー……ごめん、ちょっとゴッチャになってた」
「この話はあとや。これからあいつを送り出してやらんといかんねん。お前もいけるか?」
そう言われてしまえば、私は頷いて付いていくしかない。
頭を切り替え、翼宿のあとを追った。
見送りは、厳(おごそ)かに行われた。
屋敷の広い敷地の一角に、こんもりと山が作られる。
今、彼はそこに眠っている。
この屋敷にいる全ての人が、今ここに集まった。
そんな中、翼宿が山に近づくと、攻児が手に持っていた酒瓶を手渡す。
翼宿はそれを受け取ると蓋を開け、その山に豪快に振りまいた。
「いっちゃんええ酒やで。ゆっくり飲みぃな?」
その言葉をきっかけに、至るところで鼻をすする音がし始める。
こうやって彼らは仲間を大切に思い、最後まで敬い続けたのか。
私はその光景を、じっと目に焼き付けた。
「……酒、匂ってきたぞ。中に入れ」
「旺牙……」
ふいに声をかけられて振り向くと、旺牙が庇った男の子の肩を借りながらそこに立っていた。
「平気、外だし。あんたこそ寝てなよ」
「寝てられるか。あいつは……熱心な男だったんだ」
「……そっか……」
「まだ……俺より若かいんだ……」
「そう、なんだ………」
若い。
どうしてこうも若い命がなくなっていくのだろう。
旺牙が目を向ける、眠っている所を見やる。
今や翼宿と攻児を初め、盛大に酒盛りが始まった。
「え、ここで飲むの?」
「頭はいつもああするんだ。酒をやって、みんなで飲む。そうしたら“寂しくないやろ”って」
「ああ、なるほどね」
本当にどこまでも、彼らは常に仲間を思っているんだ。
「酒、追加で持ってくるよ」
「アホ。ぶっ倒れるぞ」
「息とめて入ればいいじゃん」
歩き出すと、途端にズシッと肩にかかる重み。そして耳元に聞こえてくるため息。
は!?と顔を上げると、そこに旺牙の顔が至近距離にいた。
「あんたは行くな」
「旺牙!?」
「酒、頭らに頼んだで」
「へ、へい!」
旺牙は今まで肩を借りていた男の子に声をかける。
「あのぉ……?これは一体……」
「肩、借りるぞ」
「おう……」
なんか、どうしていいかわかんなくなるな……これ。
「旺牙、無理せんでええんやで?」
「副頭……!頭も!すんまへん……」
旺牙が慌てて私から離れる。
「ああ、貸してもろてたらええやん?なあ、幻狼」
「せやな。南央、旺牙を頼むで。すぐ無理するさかいな」
「へ?あ、うん」
私が旺牙の下に入り込むと、旺牙は身をよじって避ける。おいおい、さっきは自分から乗ってきたくせにそんな逃げなくても。
「お前は……ほんまやったら今も部屋におらせるんやで。今からでも戻るかぁ?」
「頭……」
翼宿のピリピリとする空気が流石に伝わってくると、旺牙はすごすごと私に腕を回してきた。
……私の意思は完全に無視だな。別に問題ないけど。
「ほんまに……お前は強情なやっちゃ」
翼宿は困った奴だ、と言わんばかりに呟いた。