ふしぎラビリンス5~決意~
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「朱雀も、随分と厄介な力与えたもんだな」
再び旺牙を横にさせて、私は今日までのことを話した。
絶対に信じてもらえない。そう思っていたのに、目の前の旺牙はすんなり受け入れた。
「旺牙……嘘だと、思わないんだ?」
「ああ。思わないな」
「なんで……」
心臓が少し早く動く。だって……今……口元が弧を描いて……。
「こんなこと、思いつくかよ。あんたが」
笑っ……た………?
「お、旺牙?」
「なんだ?」
「笑うんだね」
「……………」
ああ!せっかく笑ってくれたのにまた戻ってしまった!
「ご、ごめん!もう言わないから、笑ってよ!」
「何も面白いことないのに笑えるか」
「面白いことしたら笑うのか!」
知らなかった!なんだ、笑うんじゃん!
特別なもんを見た時は、自然と心躍るもんだ。
だから旺牙が何かを考え込んでることなんて、気づきもしなかった。
そして何かを思いついたように、それはポツリとつぶやかれた。
「……いるか?」
「え?」
なに……?何がいるかって?
「俺の剣の腕、やろうか?」
「なに、言って……」
だって、もらうには……。
あと、2回旺牙と………。
「っ……、いらないよ!!」
くそ、そんな真剣な顔、やめろよ……。
「旺牙のなんてもらったら、死んじゃう!」
「……死んだら元も子もないな」
「まったくだよ!」
旺牙がマジマジとある1点に目を向ける。
目で追うと私の腕だ。
「な、なんだよ……」
「似てるんじゃなくて、副頭そのものだったのか」
「旺牙……?」
「あまりにも現実味がなくて気づかなかった。無理させた」
……今日は、一体どうしたのだろう。
やけに旺牙が、優しい。そんな気がした。
陽が沈みかけた頃、待ちに待った彼らが戻ってきた。姿を見た瞬間、私は心底ホッとした。
「翼宿……」
「南央、旺牙はどこや」
その深刻な表情と声に、私は息を呑んだ。
そして返事をする間もなく、後ろから聞こえてきた声。
「へい……ここに、おります……」
「旺牙!?」
振り返れば、ふらつきながらもやってくる旺牙に数人が手を貸すところだった。
肩を借りて旺牙は翼宿の前にやってくる。
そんな!
まだ動くなんて到底出来ないはずなのに!
それでも旺牙と翼宿の放つ雰囲気が、口を挟むことすら出来なくさせる。
「旺牙。怪我したんやってな。すまんかったな」
「ええんです。それより……頭、すんまへん……1人……」
「ああ、それなんやけどな……」
翼宿が僅かに後ろに目をやる。
私も同じように目を向けると、そこには攻児が布に包まれた“何か”を持っていた。
「ここに戻る時にな、オレらの前にも現れたんや」
翼宿が言う。
旺牙は攻児の持つものに目を向けたまま、静かに聞く。
「化けモンは焼いた。せやけど、その傍らに……“そいつ”はおった」
そいつ?
私にはピンと来なかった。
だけど旺牙は小さく言葉を発すると、ヨロヨロと攻児に近づいた。
「話は聞いたで。旺牙……連れてかれたんは、“こいつ”やろ」
「……………」
今ので、やっとわかった。
攻児が持つ“何か”は……“彼”なんだ。
その大きさからとても人のようには見えない。それでも……翼宿や、攻児にはわかったのだろう。
ーー自分の大事な仲間だ、と。
「っ……!」
思わず翼宿の横を通り抜けて駆け寄ろうとすると、後ろから抱き寄せられた。
すかさず目を覆われる。
「……お前は見んでええ。ええ子やから、大人しゅうしとき……」
その声に身動きが取れずにいると、程なくして人々の嗚咽が聞こえてきた。
中には……旺牙の声もあるような気がした。
大切な仲間だったんだ。
その仲間が今……小さな姿になりながらも戻ってきた。
その場に響き渡る男たちの嗚咽に、私も熱いものが込み上げてくる。
「っ、………、ぅっ………」
「……すまんかったな………ようがんばったで」
後ろから聞こえてくる声が、とても優しくて。
見せないようにしてくれている手のひらを私は自身の涙で濡らした。
この世界に来て……初めて泣いた。