ふしぎラビリンス5~決意~
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「飲まないの?」
「……ああ」
「飲んだら熱とか膿んだりとか、ないかもよ」
「……自力で、治す」
「つらそうじゃん。飲んじゃいなよ」
「いらん……」
「……子供じゃないんだから、飲もうか」
「……………」
ついにはシカトか。
ほう、そうか。それならもう、いっそ……。
「飲ませてやんよ」
「!」
あの時は水だったけれど、私にだって経験がある。
よおし、やってやる。
器を持ち、口にできるだけ含んだ。
途端に広がる苦さに、思わず飲み干したくなった。
いやいや、私が飲んでもしょうがない!
すぐに旺牙に顔を向けると、旺牙は身じろぐ。
「何する気だ……、ま、さか……」
おうよ。そのまさかだよ。
「やめろ………、っ……」
避けようにも腹の痛みに動けなかったようだ。
私は顔をガシッと挟み込むと、その口に自分の口を押し付けた。
「っ!!」
早く、早く飲めよ……!
苦いよ!めちゃくちゃ苦いよ!!
上から被さっていることもあって、薬はすんなりと移動した。
「んむっ……」
くぐもった声と共に、旺牙の喉が動く。
あ、飲んだ。
それがわかったところで口を離す。
こんなにも近くに旺牙の顔があることも、初めてだった。
「にが……なに、するんだ……っ」
「ほら、水。飲みなよ。もう今は飲みたくてしょうがないだろ」
「……くそっ……」
体を起こすことはままならないけれど、あの薬の後味を消したかったのだろう。
旺牙は水の入った器を受け取ると、零しながらも飲んだ。
「飲んだらきっと、治りも良くなるんだから……」
「……………」
「旺牙が死ぬなんて嫌だ」
「……勝手に殺すな……誰が死ぬか、こんくらいで」
「だってえぐれ……てたんだよ。肉、なくって……」
「………ちょっとだけだ。すぐに肉は再生する」
再生?
ふと、なんか思いついた。
おもむろに布団を剥いで、包帯でグルグルに巻かれたその場所に口をつけた。
「…………今度は、何の真似だ……」
「ちっ、やっぱダメか」
「離れろ。今すぐ、離れろ」
「やー、ごめん、ごめん。治るかと思って」
「……なんだそれ、ツバつけときゃ、ってやつか。ツバつけやがったのか、今……」
「まさか!違うよー!」
なでなで、と口付けたところを撫でる。
やっぱり私には治癒的能力はないようだ。
「……撫でるな。むず痒い」
「あ、ごめんごめん」
「………お前、無意味に触るなよ……」
「え?なに、聞こえなかった」
耳を旺牙の口に寄せる。
「……何でもない。近寄んな」
「ひどいなあ。もう、ほら怪我人は寝てなよ。まだ熱も……うん、高い」
額に手を乗せれば、ふい、と首を動かされて外される。ほんとにこいつは……ちょっとも触っちゃダメなのか?
「寝る前に……」
「え?」
「粥……くれ」
「食べれる?」
まさか食べるというとは思ってなかった。
いや、食べて欲しくて持ってきたから、それはそれで嬉しいんだけど。
「食べないと、治らないからな……。早く動けるようにならないと頭の役に立てない……」
「まだ無茶だからね!?食べたからってすぐには……!!」
「いいから……口に入れてくれ。食べるから」
ううむ。
こいつの忠誠心、どうなってんだ。
でも食べれるなら食べた方がいい。私は匙に乗せると、旺牙の口に運んだ。
それでも………数回食べたところで、だんだんと咀嚼の回数が減り、ついにはそのまま眠りについた。
「………旺牙?」
声をかけても規則正しい寝息しか聞こえてこない。
でも、呼吸が楽にできるようになったようだ。
「薬、効いてきたのかな……」
早く、治って……。
翼宿と攻児はきっと明日の夕方にしか戻らないだろう。その間にも見回りは行われるはずだ。
旺牙は絶対に行かせない。
私に、旺牙の代わりができるだろうか。
あ、そうだ。代わり……。
さっき私……旺牙にしたじゃないか。
「あと2回したら……旺牙の力も手に入るのかな……」
そっと眠りにつく旺牙を見下ろした。
今なら出来る。寝込みを襲えば。
あと……2回……。
旺牙の力……。
旺牙の顔に、自分の影を落としてみた。