ふしぎラビリンス5~決意~
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スクッと立ち上がると、私の足首は掴まれた。
驚いて下を向けば、旺牙が顔を歪めて見上げていた。
「どこに、行く気だ……」
「………助けに。行くもんでしょ」
「やめろ」
「私なら……攻児の腕を持ってる!!使いこなせてないかもしれないけど、今使わなくてどうするんだよ!」
口早に告げれば、旺牙は眉間にシワを作った。
「……意味がわからん」
「わかんなくていいから。放して。助けに行かなきゃ!!置いてきたんだろ!?」
その言葉に、旺牙の手に力が入った。
どこにそんな力が残ってるんだ。
しゃがみこんで旺牙の手を放そうと、私は手を重ねた。
「やめろ……もう、手遅れだ……」
「なに、言って……」
旺牙は逆に私の手を掴んでくる。
その手があまりに冷たくて、私は口を閉じた。
「あいつは……連れていかれた……っ」
「っ……!」
なんて、悲しい顔をするんだ……。
なんて……苦しい顔をするの………。
「連れて、行かれた……?」
私はオウム返しに聞き返すことしか出来なかった。
その場にいた命からがら戻ってきた彼らもまたそれぞれ嘆いた。
「な………んで………」
「もう、助からない……行くな。お前まで……失いたくない」
「旺牙……」
気づいたら、旺牙に覆いかぶさって抱きついていた。
「なに、して……」
「ごめんっ……ごめんっ!」
「……何で謝ってるんだ……?」
「旺牙が一番、救いたかったはずなのに……浅はかなこと言った!!」
「……別に………、………」
「ごめん!旺牙っ……ごめん!!」
初めてだったかもしれない。
私のすぐ横で、旺牙の涙が伝うのが見えた。
じっと目を伏せ、悲しみに、耐えていた………。
「旺牙、寝たかな?」
「へい。安静にしてもろてます」
「よかった。ねえ、一体、何があったの……?」
「………化けモン……が……」
旺牙を私室に寝かせると、私は事情を聞いた。
話を聞けば、旺牙たちがいつものように山の見回りをしていたら、“ソレ”は突然、土の中から出てきた、と言うことだった。
巨大な虫のようで、それなのに生命力が高く、旺牙が斬りつけても怯まなかったそうだ。
退却を命じた旺牙は、全員で帰還しようとした。
ところが仲間の1人が足場の悪くなったことで不運にも転んでしまった。
「そこで、襲いかかって来たところを……旺牙はんが……」
「脇腹を噛まれた……そういう事?」
「へい……」
あの状態で負傷しながらも更に仲間を守りつつ、旺牙は帰還しようとした。
それでも容赦なく襲ってくる“ソイツ”に、仲間が1人、捕まった。
とても怖くなった。体が勝手に震える。
どれだけ旺牙は……悔しい思いをしたのだろうか。
その日の夜、私は再び旺牙の部屋を訪れた。
手には粥を用意してみた。
「あれ、あなた確か……」
「南央はん……!」
旺牙の部屋の前に、彼が庇ったとされる子が立っていた。
「見張り?」
「へ、へい!旺牙はんにいつ呼ばれてもええように……」
「そっか。それじゃあさ、私が今から旺牙見てるからあなたも少し休んできたらいいよ」
「へっ!?そ、そそそそないなこと……!」
よくよく見たらこの子、まだ若い。
それに怪我だってしてる。
コケた傷だって……生易しいものじゃなさそうだ。
「休み休みにせんとな、って……翼宿、頭も言うと思うよ?」
「っ……すんません……」
彼が別の部屋に入っていくと、私は旺牙の部屋をノックした。
返事を期待していたわけでもないので、私はそのまま扉を開けた。
そう言えば、初めて足を踏み入れる。
薄暗い部屋、その一角に寝台があった。
今はそこから浅く早い呼吸が聞こえる。
「旺牙……」
近づいて、名を呼ぶと目が僅かに開いた。
「……何しに、来た……」
「お粥、持ってきた。食える?」
「……いらない」
食べれない、か……。
旺牙の目がまた閉じられる。
胸が上下に揺れ動き、その速さに目が奪われる。
いつも物静かな空気をまとっているのに……。
「熱、出てきたんじゃないの?」
そう言って、額にピト、と手を置いた。
「……よせ……っ」
「あつッ……熱いよ!?」
「……うるさい……もう戻れ……」
「待って。水くらい飲んでるの?」
そう目を横にずらせば、台の上に乗った薬と思われる液体が入ったままでそこにおいてあった。
「これ!飲んでないじゃん!」
「……いらん。それは……苦い」
「…………」
そうだ、こいつ……。
甘党だった。