ふしぎラビリンス4~与えられた力~
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「いい加減にしろ!いつまで剣を落とし続ける気だ!」
「っ……わかってる!」
「次、打ち込んでこい!!」
今、私は旺牙との稽古中だ。
あの日、朱雀が私の夢に出てきた日から、数カ月が経った。私はその間、1人でこの力を受け入れようと必死だった。
どうやら本当に攻児の剣の腕を写し取ったようだ。
剣を握れば勝手に体が動き、相手の攻撃をかわすことが出来た。
稽古の相手を願えば、口々に「アニキと稽古してるようや」と言われた。
そこまではよかった。攻児も腕は立つようで、仲間内で稽古する分には、優位に立てた。
だけど……今の相手、旺牙に至っては……正直、地獄だ。
「っ……!……はぁ、っ……はぁっ」
「何度か剣を交えたくらいで息を乱すな」
「わ、かってるよ……!」
わかってる。
もう何度も言われ続けている言葉だ。
「副頭ならこんなのとっくに弾き返してる」
それも、わかってる。
攻児の腕を写し取ったからと言って、私に使いこなせるものじゃない。
なのに体は動いて旺牙の剣を受け止める。腕に痺れが走って、その痛みで剣を落としてしまう。
「っ……ちくしょ……」
筋肉が足りない。持久力が足りない。
所詮、私に与えられた力は、オリジナルには勝てないまがい物に過ぎなかった。
「おー、やっとるやっとる」
剣を拾ってもう一度と旺牙に向き直ると、その向こうから翼宿がやってくる姿が見えた。
「どないや?」
これは旺牙に問いかけられた言葉だ。
旺牙は翼宿にわずかに頭を下げる。
「へい。最初の頃よりは、マシになってはおるんですけど……」
「ずいぶん、しごかれとるやんけ」
「たす、き……っ……まだ、終わりじゃないから、邪魔、しないで」
「ほう」
「おまっ……頭になんて口の聞き方しとんねん!」
「ええんや。熱心な奴は嫌いやないで。せやけどな……」
翼宿がふらつく私の腕を掴みあげる。
「休み休みせえへんとな。旺牙も来いや」
「へい、頭」
「え、あ……ちょっと!!」
どこに連れていかれるのかと思ったら、攻児の部屋だった。
「連れてきたでー」
「おー、ほな茶でも淹れて……」
「え、お茶!?攻児さん!お茶なら私が淹れるから!!」
「あ、ほんま?ほな、よろしゅう」
コポコポととりあえず人数分のお茶を淹れる。
なんだこれ。お茶会かよ。
「ちぇっ、まだ稽古の途中だったんだけど……」
「南央!口の利き方を改めんかい!」
「ああ、ええんやて。お前ら稽古になるとどっちも周りが見えんようになるさかいな」
翼宿がお茶をすすりながら、景気のいい笑い声を出す。
しょうがないじゃないか。
攻児の腕をもらったからと言って、使いこなせるわけでもなくて、むしろ勝手に動いた後に襲いかかってくる負担の方がきつい。
ちら、と攻児を見ると、ちょうど目が合った。
「ん?」
「…………」
お茶を飲もうと手を出す。私はその腕に目が行く。
筋張った腕に大きな手。ただ茶器を持っているだけなのに浮かび上がる筋肉。
「……………」
「……なんや?どないした?」
「……………」
「おーい。……急にじぃっと見られると困るで。なんかついとるん?」
「………その腕が欲しい」
「は?」
思わず呟きとして出た言葉に、3人が固まった。
「なんやて?攻児の腕?」
「また馬鹿なこと言い始めた……」
「ハハッ!オレの腕、そないええか?」
呆気に取られる翼宿に、ため息をつく旺牙。
そして、気を良くしたのか腕を振り回す攻児。
その腕をじぃ、と見て、やはり“欲しい”と心から思ってしまう。
私には、あんな筋肉はない。
自分の腕を袖をめくって見る。
……はあ。到底、及ばない。
「……ずいぶん荒れとるやん」
「へ?」
翼宿が私の腕を掴んだ。
「なんやこれ。擦り傷だらけや」
「………使えないんですよ。私の腕じゃ……」
「何の話や?」
「いいえ。私の独り言です」
翼宿はそれ以上、聞いてくることはなかった。
私もまだ言わずにいた。言ったところで、何の役にも立たないと知っているから。