ふしぎラビリンス3~力無きもの~
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「水や!飲めるか?」
攻児が現状を見て、すぐに口元に器を持ってきてくれる。少しだけ頭を傾けるものの、口の端から水が零れ落ちてしまった。
「ちょっとずつでも飲まんかい!」
そう言われても喉も痛いし、頭も痛い。眉を下げながら、ふるふると首を降ることしか出来なかった。
「しゃあない。飲ませたるわ」
「……攻児、お前……」
「飲んでもらわな困るさかいな」
「おい……」
攻児が私の後頭部に手を回し入れてきた。頭が僅かに持ち上がり、ぼうっとする中、彼の動作を見ていた。
攻児が器に入った水を飲んだ。いや、飲んだと思っただけで、実際は口に含んだだけだった。
急にぐっと顔が近くなったかと思ったら、その口が私の口に重なった。
「っ」
何が……と思う間もなく、口の中に流れ込んでくる液体。どうしていいか、いや、どうすることも出来ないでいると、その液体は口から溢れでた。
攻児が唇を離す。
「すまんが、ちゃんと飲み?口に入ってきたら、ゴックンてするんや。ええな?ゴックンや。出来るやろ?」
ごっくん……そうか。
飲む……んだ。
思考回路もおかしくなっていたのだろうか。されるままに、言われるままに今度はちゃんとしなくちゃ、と思った。
攻児が再び器に口をつけて、それを私の口に重ねるとゆっくり液体が流れ込んできた。
飲むんだ、と促すように歯列を僅かに舐められる。
……こきゅ。
どうにか喉を動かして飲んだ。すると今までの痛みが潤いを与えられたことで和らいだ。
もっと……もいっかい飲みたい。
焼けるように痛かった喉を水分で保護したい。気づいたら攻児の胸元の服を握りしめていた。
「まだ飲みたいんか?」
その声に一度頷いた。
「ええで。ほな、もう一回な」
三度目。
もう飲むのも簡単だ。
「……ぁ、…………はぁ……」
呼吸が心拍数とともに落ちついてくる。
ああ、水って大事。
「また欲しなったら言うんやで?次は幻狼が……」
「なんでやねん。ったく、あいつらにはせえへんくせに」
「当たり前やろ。特別やで」
翼宿と攻児が話す中、部屋の扉が叩かれた。
「頭、おられますか?旺牙です」
彼のスムーズな関西弁が聞こえた。翼宿が声をかけると中に入ってきた。
旺牙は翼宿の傍まで来ると、その場に膝をついた。
「話、ついたんか」
「へい。あとは頭の処遇待ちにさせとります」
「そうか」
ものすごく淡々と行われるやり取りに、思考を巡らせた。心臓がバクバクしてくる。
話をつけた?処遇?
あの人たちは……どうなるのだろう。
近くにいた攻児に目を向けた。
既に横になっていた私は、頭が重くてそれしか出来ない。
「……ケジメやねん。幻狼に……頭に任せとけばええ」
肩眉を下げて言ってくる攻児の表情を見れば、それは生易しいものではないのでは、と更に思えてくる。
だめだ。止めなくちゃ。
起き上がろうとするが、途端に襲いかかる腹部への痛み。
「っ………」
「どないした?」
攻児の声に翼宿もこちらを見た。咄嗟に布団を頭までかける。
「なんでもない……服、着たいだけ」
「そいつ……腹、殴られとるんです」
「っ……」
なぜ知っている?旺牙の言い放った言葉に、翼宿がそれはそれは低く唸った。
「なんやて……?あいつら……ホンマに殴ったんか」
「へい。こいつに何をしたか口を割らせました」
翼宿は静かに怒りに震えていた。そして私の顔を布団から出させると視線を向けてきた。
「殴られたんか?」
「………」
い、言えない。
言ったらさらに追い討ちをかけることになるんじゃないだろうか。
黙りこくっていると、翼宿は旺牙に目線を向けた。
「話せや」
「へい。調理場にいたこいつを連れ出そうとした際、暴れたことで腹に一発入れたそうです。その後も暴れるとその都度、腹に食らってます」
「あいつら……」
ああ。何度か殴られていたのかと腹部を摩って理解した。翼宿は私に目線を合わせてきた。
とても静かに、私を諭すかのように口を開いた。
「あんな、オレはこの山の頭や。この山で起きたことは全部知っとかなあかん。お前をこの山に置いとくて決めた以上、お前に起こったことも知っとかなあかん。わかってくれへんか」
……わかる。翼宿はここの頭。
頭としての責任と、重圧。それを常に背負っているに違いない。
「腹、痛いやろ?平気なん?」
そんな優しい声で、言わないで。
目を閉じれば私の作ったご飯を美味しそうに食べていたあの人たちの顔が思い出される。
でも……ごめん……。
「……痛い……痛いよ、すごく……」
「そか……すまんかったな」
これで殴られたと肯定したも同じ。翼宿は私の頭をくしゃりとかき撫でた。
「旺牙。あいつらは……追放や」
「へい」
「女子供に手ぇ出すやつは仲間やない」
追……放………。
私の一言で、あの人たちはここを追い出される……。
「………っ」
あまりにも衝撃が強くて、この山の掟に思考がついていかない。
ショックなのはショックだけど、何より自分が許せなかった。