ふしぎラビリンス3~力無きもの~
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「その辺にしとこうかあ?」
声を聞いた時の安堵感は一生忘れないだろう。
男達はビクリと大きく反応すると、すぐに私から手を離した。
「ふ、副頭……!!」
「あああの……これはちゃいますねん!」
男らの声は完全に怯えていた。
解放された私は起き上がり、体を自分で抱きしめた。剥ぎ取られた服を手繰り寄せる。
気持ち悪さも相まって手が震えた。
「ちーと来るの遅なったな。すまん」
そう言って攻児はサッと手を貸すと私に服を着せ立ち上がらせた。ふらつく足を見て、すんなりと横抱きにした。
「幻狼、嫌な気ィは当たったな」
“幻狼”と呼びかけたことで、そこに縮こまって立っていた男達が一斉に床に跪いた。
いわゆる土下座だ。
その彼らの前に、翼宿は現れた。
手には鉄扇を握りしめ、その表情は……怒気を帯びて険しかった。
「おのれら……」
「か、かかか頭……ほんまに、ほんまに、すんまへ……」
「謝って済むことや思とるんか……見損なったで。オレの信頼を、お前らは裏切ったんや」
「す、すんまへ………」
先程まで傲慢に私を押さえつけていた男達とは思えないくらい怯えていた。
私はこんなやつらに……負けたのか。
男どもは無様に目の前に堂々と立つ翼宿に恐れを成している。
これが、幻狼。
厲閤山の……頭。
「…………っ」
「お、おい!アカン、幻狼!早う部屋に連れてかな!」
「……………」
頭がガンガンと痛い。くったりと攻児の胸に頭をつけて目を閉じた。今までにないほどの感覚に恐怖も出てきた。
私はどうなってしまうのだろう。あの酒蔵にある酒はどれだけ強いのだろう。
「幻狼!行くで!」
尚もその場に立ち、彼らを睨みつける翼宿は、意を決したかのように背中を向けた。
「お前ら男やない。覚悟しいや。……旺牙。こいつらの事はお前に任せるで」
「へい。頭」
「ひっ……旺牙はん!」
「か、堪忍してえな!」
「……オレらの居留守を狙うんが運の尽きや」
幻狼と並んでこの部屋をあとにする後方で、私を襲った彼らが旺牙に急き立てられながら歩いていた。
その異様なまでの雰囲気に、先程まで軽蔑していた相手が気になった。
決して、知らない人達ではないから。
「……あの人、たち……は……?」
喉の痛みと、激しい頭痛、胸のムカつきの中、私は聞いた。
「……………」
翼宿は口を開くことなく、私を一瞬見ると眉間を寄せ、更に口を真一文字に固く閉じた。
代わりに攻児が口を開く。
「えらい目に合わせてすまんかったな。お前さんは、今は早う酔いを覚まさな。ほれ、何も考えんと休んどき」
その優しい声に、もう一度もたれ掛かった。
頭がクラクラする。喉が……いや、体が熱い。
それなのにすごく寒い。
私の部屋の前まで来ると翼宿が扉を開けて、攻児が中へと入る。私は寝台に寝かされた。
「……酒、飲んだら……どうなる?……飲んだの、初めて……」
「……飲まされたんか?」
「口に、酒瓶押し込まれた……」
「……そう、か……」
「幻狼……」
目を開けるのもしんどくなってきた。
こんなの、初めてだ。目の奥がじわじわと違和感がある。
「このまま……死んだり、しないよね……?」
「アホ。こないなことで死なせるかい」
「南央。水持って来たるからな。幻狼、ここはええか?」
「ああ」
攻児が部屋を出て行くと、翼宿が顔をのぞき込んできた。
「替えの服、どこや?」
「………?」
「酒の匂いさせたまんまやったら苦しいだけとちゃうか?」
ああ、確かに。なぜ未だにふわりとお酒の匂いが漂ってくるのか、と思っていた。
私の体や服に飛びかかったのか。
「そこの……引き出し……」
「開けるで」
ガコン、と引き出しを全て引っ張り出した。
その箱ごと私の前に持ってくる。
「着替えり」
そう言った言葉。それが私には……微かにしか聞こえなかった。
「っ……おい!しっかりせえ!」
「苦し……」
翼宿が私の頬をぺちっと叩く。大丈夫だと言ってやりたい。でも、声が出せない。
それにさっきからものすごく寒い。
「あかん。酔いが完全に回っとるな」
酩酊(メイテイ)状態に陥ってしまった。酷い頭痛に寒気まで襲ってくる。体を縮こませようとすると翼宿は手早く服を脱がせた。そのまま私の体を横向きにした。
これはあとで知ったけれど、横向きにするのは吐いた時に吐物で喉に詰まらせないための処置らしい。
それに……体にも掛けるものをいくつも乗せてくれた。
慌てるでもなく的確に対処してくれたことに私は驚いた。
「吐きたくなったらそのまま吐いたらええ。我慢するんやないで」
「…………」
声にならなくてゆっくり頷いたことで、「はい」と意思を示した。
「すまん!待たせたな!」
そしてここで、攻児が水を持ってきてくれた。