ふしぎラビリンス2~居場所は自分で~
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ここに来て数日。私は一応、自分の居場所を確保した。
そして、“今”は美朱達が心宿との激闘の末、翼宿らがこの世界に戻ってきてから、約一年が経とうとしていたことも知った。
それなら……。
美朱と魏となった鬼宿がここに来るまで、あと一年あることになる。
「長いって……」
「何が長いんや?」
ゴシゴシと鍋を洗いながら呟いていると、いきなり聞こえてきた声に肩がビクッと跳ねた。
「び、びっくりした……」
一気に心拍数が上がる中、手を止めた。
この声はよく知っている。攻児だ。
「副頭ともあろう方がこんな所にまで、どうしたんです?」
「お前に言うとこ思てな」
そう言うとガシッと肩に腕を回してきて、窓際へと連れていかれる。
ずっしり感じられる攻児の重みを目の当たりにした。
「あそこで旺牙に鍛えられとる奴らがおるやろ」
「え?あ、はい」
言われて窓から外を見る。
確かに走らされたり、組手を取らされたりしている人が3人ほど見える。
「あいつらは今日、男になんねん」
「……今までは違ったんですか」
「そうくるか。ちゃうな。ええか?ここには若うして入ってくる奴もおんねん」
「……そうなんですね」
「せやからオレらがあいつらを1人前の男にさせたるんや」
「何か教えるんですか?」
「オレらは連れていくだけや。でもちゃーんと励むように見送りださなアカンやろ?」
励む?なんのこっちゃ。
先程から聞いてはいるものの、攻児が何を言っているのか意味がわからない。
「で、私は何をすれば?」
「精がつくもん、夕飯に出してぇな?」
ポンポンと肩を叩かれて攻児は出ていった。
とりあえず、力のつくものを食べさせたらいいらしい。
私は早速、下ごしらえを始めた。
今日、男になると言った3人は夕食の間もそわそわしていた。
つまりは成人式のようなものなのだろうか。
それなら男になるのも納得できる。
その彼らは今、翼宿と攻児、そして数人の仲間とともに出かけていった。
「ねえ、旺牙」
「なんだ」
見送りながら私が旺牙を呼ぶと、彼の声がすぐに聞こえた。
「あの子達さ、いくつ?」
「15だ」
「若っ!」
予想打にしていない年齢が返ってきた。
若そうだとは思っていたけれど、15ならまだ子供じゃないか。
「でも昔は15才で元服、とかだっけ……」
「何の話だ」
「いや、なんでも。彼らはいつ帰ってくる?夜中だったらなにか作って待ってた方がいい?お腹空くよね」
うーん、何がいいかなあ、と考え込んでいると、呆れたため息が聞こえてきた。
「帰ってくるわけがない。色街だぞ」
うん?聞きなじまない言葉が聞こえた。
「いろまち?」
「……本気で言ってるのか」
「成人式とか、なんか儀式するんじゃないの?」
「……………」
何言ってんだ、こいつ。って顔を向けられる。
なんだよ。なんだって言うんだ。
「娼婦を……女を抱きに行ったんだ」
「…………」
うん?今度は聞き間違ったかな。
「なんだって?」
「何度も言わせるな」
「いや、だって今……」
「別に普通だろ」
………普通!?
カァ、と頬が熱くなるのがわかる。
でも動揺していることを悟られるのは嫌だ。
パッと顔を下に向けると、尚も旺牙は呟いた。
「男なんて、誰でもすぐに抱ける」
な、何故そんなことを言うんだ。どういう反応をしたらいいのかわからないじゃないか。
“へー、そうなんだ?”って平然とする?
それとも“やめてよ、もう!”って頬を赤らめたらいいのか?
どっちも出来るかあ!!
「い、いいよ。もう……わかったから、さ」
顔を背けたままその場を離れようとした。だけど私の体はまだそこにいた。
肩を、ぐっと掴まれたから。
「待て」
「な、なに?」
「今夜、俺は夜番で屋敷にいない」
「え?あ、そう」
夜番というのは、夜の見回り、パトロールのことらしい。
「頭も副頭も俺もいない。気をつけろ」
「気をつけろって、何に?」
「そんなナリでもあんたは女だ」
「………だから何?つまり、抱けるって?はっ、冗談……」
ペイッ、と肩から手を剥がす。
「おい」
「忠告どうも。私にまで欲情する奴がいるなら見てみたいよ。レアだね、レア。稀に見ないよ」
「過信するな。痛い目見る」
ここまでしつこく言う旺牙は珍しい。
だけどこう言っちゃなんだが、今までこれっぽっちも相手にされた試しがない。
でも、もう少しきちんと耳を傾ければよかったのかもしれない。
私は数時間後、ものすごく後悔することになる。