ふしぎラビリンス2~居場所は自分で~
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夢の世界に迷い込んだら何があるかな、っていつも思ってた。
これが密かな楽しみで。
夢ってなんでも出来る。しかも、結構都合のいいように。それが、夢というお話の醍醐味。
そんな夢好きな私は……念願の、あの人のいる世界に迷い込んだ。
きっとこれから私にもトキメキの世界が待っている。ああ、二次元を密かに愛し続けて良かった。
そう思っていたのに………これは、なんだ?
「……お、わ、ら、な、いぃぃぃ………」
掃除に追われていた。
トキメキ……そんなのいつあるんだよ。
べとついた油は落ちず、皿はきれいに洗われてもいない。調理器具だって、これ何ついてんだ……。
どうせ、包丁だって使いもんにならないやつなんだろ……と言いたいところだけど、手にした包丁は一際輝いていた。
「……メチャクチャ研いである………」
光り輝く包丁はとても切れ味が良さそうだ。
山賊の性(さが)なのかな。
と、こうしてはいられない。早く作らねば。 口約束とはいえ断言してしまったのだから。
そして早くここへ来た意味を、見い出さなくては。
「………ホンマに1人で作ったんか?」
今、私は腕をプルプルと震わせながら、ここの賊のトップ、翼宿……いや、お頭の部屋に食事を差し出した。
「はい……ちょっと後悔してるところです」
ナメていた。
大人数の食事を作るということはこんなにも負担が大きいのか。それとも、慣れていないだけなのだろうか。
どちらにしても……野菜の切りすぎで腕に力が入らない!
「うまそうやん。ようやったな」
……あ、今の言葉で少し救われた。
じーんと噛み締めていると、ふいに自分の前に影ができた。
うん?と顔を上げると、翼宿が目の前にやってきた。
「えっ、な、何か……!?」
「お前にこれやっとくわ」
そう言われて手元に置かれたのは……思ってもみなかったものだった。
「短剣や」
「た、短剣っ!?」
「仲間はみんなええ奴やねんけど……血気盛んな奴もおんねん。せやから持っとき」
それは、つまりあれか?
「喧嘩を吹っ掛けられるという……」
「アホ!お前が、女やからや」
「わ、私が女に見えますか!?」
わー、わー!これはすごい!
人生においてこんな日が来ようとは!
「……いや、見えんけどな」
「えー!?だって、今……今の流れなら……!」
「せやけど、お前が男やないことは知っとる。むさ苦しい男らの中におったら、お前でも良くなってくるもんなんや」
………これは貶(けな)されてるとしか思えない。
反論したい!したいけれど……自分でもわかっている。
特に、唯一の女らしいと思えた髪でさえも、今は短いのだから。
「でも……これを振り回したら怪我……しません?」
「怪我やない。殺す覚悟で振り回すんや」
「え……」
殺す?
え?
なんか今、あまりにも自然に言うもんだから、私が間違ってるのかと思ってしまう。
「そんな……殺しちゃ、だめでしょ…?」
「アホなこと言うとんやないで。自分の身ィは自分で守れ。本気で斬りかからんと死ぬで」
「っ……」
まさかそんな言葉を聞かされるなんて。
だって……必死で死なせないようにする話もあるじゃないか。私だって守りたいと思ってる。
「それなら剣の使い方、教えてくださいよ」
「ほお?剣ならオレよりも適任がおるで。旺牙!」
翼宿が一声、部屋の外へ向かって声をかけると、すぐに名を呼ばれた旺牙が姿を見せた。
「こいつに短剣の使い方、教えたれ」
「……へい」
「ええか、南央。死んだら終いやで。しっかり覚えとき」
死んだらお終い。
翼宿は目の前で見てきている。だからその言葉が出るんだ。
大切な仲間が命を落とした瞬間を、見てきたから。
「……こ、心得ました……」
当時のことを思えば、すぐにツン、と鼻の奥が痛くなる。
ぐ、と噛み締めると我慢した。