ふしぎロマンス12~錯誤する想い~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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「井宿、どうして濡れたままでいたの?風邪引いちゃうよ」
目の前に立つ井宿を伺う。触れることができれば髪も拭いてあげるのに。
「……君を連れて帰ることが出来なかったのだ……」
「え?」
「君は、無事なのだ?怪我は?心宿は何もしてこないか?透も……」
今日は珍しいことばかりだ。井宿がこんなにも質問してくるなんて。
それだけ私は、心配をかけてしまったのだろう。
できるだけ落ち着かせるように優しく声を出した。
「さっきまで眠ってたの。背中は痛いけれど、ここは夢だからかな?全然痛くなくて驚いてる。実際は……」
あまり痛いといえば美朱も翼宿も気にするかもしれない。それに、別に悪いことをしたわけでもないのに、何故か心宿とのことが後ろめたくて言葉に詰まった。
その些細な言葉の詰まりに気づくのが井宿である。すぐに声色が低くなった。
「何かあったのだ?」
「え?ううん、別に」
「とてもそうは思えないのだ。動けないのだ?」
「あっ、怪我はそんな酷くないよ?“気”ってすごいのね」
「“気”?」
あ……。これボロが出た。
時すでに遅し。井宿が聞き逃すなんてことはないわけで。
“気”なんて言葉が出れば余計に気づくわけで……。
「心宿に……“気”を送ってもらったのだ……?」
「………えーと……」
「口移しで?」
あー……完全に怒られるパターンだわ。
「でもね、私、寝てたし!向こうが勝手にしたのよ?私は別に気が欲しかったわけじゃ……」
でも待って。
どうして“気を送る”ってことが、口移しってわかるの?
術者の間では当然のことなの?
ーーもう“気”をもらったことがあったのか。
心宿の言葉がまた脳裏によぎる。
“気”を……井宿もあげたことがある……。
「井宿」
「何なのだ?」
「井宿も、私に“気”を送ったことがある?」
「!」
答えを聞かなくてもわかった。井宿は今、面をつけていない。
一瞬、見開かれた目が物語っていた。
「あれは……」
あぁ、もう……今、顔真っ赤だ。私、井宿ともしてたわけ?知らない間だけど……。
その事実に顔が熱くてたまらない。恥ずかしくて手で口元を覆う。
「……いつ、なの?」
「…………君が夢から戻れなくなりそうだった、あの夜なのだ……」
「戻れなく……」
ーー戻せるかわからなかったが……試したら戻ってきたのだ。
あの時………!?
なんでわからなかったの、私!
「し、信じられない!井宿まで寝てる時にするなんて!」
「あの時あぁしなかったら夢から戻れなかったのだ!」
「だ、だからって……!!」
「それにあれは術の一種であって、変な意味は無いのだ!君が翼宿にしたようなものと同じなのだ!」
「……ッ……」
なぜ?
今の言葉は……すごく胸が痛い。
それっきり井宿は言葉を発しなかった。目線も逸らされる。
井宿にはなんてことないことだった。一瞬でも照れた私がバカだ。
なのに、どうしてこんなに……胸が苦しいのっ。
ビリッ……ビリリッ……
「痛っ……!」
また、あの感覚。体中を電気が走ったような痛みが襲う。
「奏多!?」
『ーーいつまで夢の中にいる気だ』
脳内に響く心宿の声。向こうで何かしているんだ。
「奏多!どうしたのだ!?」
「井宿……!これから鬼宿が……っ」
『ーー戻れぬと言うなら、戻してやろう。今、“気”を……』
「いやぁ!わかったから!戻るから!!勝手にキスしないでよ!?」
暗闇に引っ張りこまれる。手を伸ばす井宿が遠ざかっていく。
「奏多……!」
スゥ、と闇に溶け込むと、私は目を閉じた。
目を開けると、目の前に碧眼。
………こいつ。
「……なんだ、戻ったのか」
「ふざけないでよ」
思わず口調が悪くなる。両手で心宿の胸を押しやった。いつまでも目の前にいないで欲しい。
「くくっ、……せっかく与えてやろうと思ったのだがな」
「いりません。もう二度と」
どれだけ突っ返しても心宿は気に求めず薄ら笑いを浮かべている。
「心宿、鬼宿はどこ?まさかもう、紅南国に……!」
「ほう……なぜそう思う」
「……別に、行きそうだと思ったから……で、どうなの!?」
心宿は無言になると、スッと私の体に腕を回した。
「何するのよ!」
「鬼宿の元へ連れていってやろう」
そういうと、横抱きに持ち上げられた。