ふしぎロマンス2~夢と出会い~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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うなされて起きた後、井宿は私にお焼きを渡してくれた。
私が寝ている間に買いに行ってくれたらしい。
井宿は、部屋に戻った時に私がうなされていたから急いで起こした、と話してくれた。
外はこれから明るくなる……そんな頃合だった。
「これから、少し出かけてくるのだ」
「…………」
お留守番か、とお焼きを握りしめた。
眠って時間を過ごそうか。また眠れるだろうか。
……もう、あんな夢は見ないだろうか。
そんな気持ちが顔に現れていたのだろう。
井宿は視線を合わせるように私のそばに膝を着いた。
「金銭を工面しに行くだけなのだ」
「へ?」
「巫女に会いに行くのではないのだ」
あ、井宿は私がまた置いていかれると思ってると思ったんだ。
無駄な心配はさせる必要ない。私は笑って答えた。
「そんなこと、思ってなかったよ」
「だ?」
「ここで待ってていいの?」
「…………」
聞くと、井宿は黙り込んでしまった。
何かまずかっただろうか。
「いや、やっぱり一緒に行くのだ」
「え?」
「目を離す方が不安なのだ」
「待つことくらいは出来るけど」
「昼時に戻ってこれるかわからないのだ。昼飯を自分で用意できるのだ?」
「ここのお金は持ってないわ」
「オイラも底を尽きたのだ」
どれだけ昨日で使ったんだ……!
このお焼きは大切に食べた方が良さそうだ……。
「わかった。一緒に行く!」
「では、出発するのだ」
宿をあとにして、井宿と町へ出た。
まだ早い時間だと思うのに、通りには人が何人も行き来している。
「みんな朝が早いのね」
「もう日が昇ってきているのだ。早くはないのだ」
時間の感覚も違うのか。
黙々と歩いていると、人だかりができているところがあった。
「井宿、あの人たちは?」
「ここは宮殿なのだ」
「宮殿!?じゃあ、ここに巫女が?」
「そうなのだ」
言われて顔を右に向ける。
確かにすごい外壁だ。
赤の色調が鮮やかで綺麗。
そうだ……これ、テレビで……。
あの頃を思い出す。
“ふしぎ遊戯”は、漫画にもアニメにもなって……どちらの媒体でも見ていた。
不思議だ。
画面上で見ていたものが、目の前にある。
「奏多、行くのだ。ここが目的地ではないのだ」
「あ、うん」
さくさく歩く井宿に追いつくように足早に歩く。
「そう言えば……名前、呼んでくれるようになったね」
「教えてもらったからには呼ぶのだ」
「へへ。そっか」
「嬉しそうなのだ」
「嬉しいですとも」
「ただ呼んでるだけなのだ」
井宿が不思議そうに見てくる。
それだけの事かもしれないけれど、今の私にはとても嬉しい。
「だって……この世界で私のこと知ってるのは井宿だけだもの」
「…………」
「私は存在してるって……実感する」
へら、と笑って見せた。
井宿にはどれだけ感謝しても足りない気がする。
ここでこうしてちゃんと歩けているのは、この人のおかげだ。
「存在を実感……か。それはオイラもなのだ」
「え?」
とても小さな声だった。
自分だけが聞こえるくらいの小さな呟き。
井宿はすぐにいつものあの笑っている顔で「なんでもないのだー」と言っている。
でもね、井宿。
私はあなたのことを知ってるって言ったじゃない。
あなたのその顔が、お面だってことも、あなたがどうしてお面をつけるようになったのかも……
でも、今は、聞こえなかったことにしよう。
井宿が、なんでもない、と言ううちは。
「ここ?」
「そうなのだ。ここが1番落ち着いて集中できるのだ」
何をやるのかしら。
ついたところは町を抜けて、穏やかな川が流れているようなところだった。
川沿いに歩き、大きな岩がゴロゴロしているところまで行く。
「ここでこの札に念を送りたいのだ」
「そっか。なら、私はどこかにいようか?」
井宿が岩の上に軽々と上がる。
念……井宿の力だ。
「ここにいていいのだ」
「じゃ、座ってる」
井宿は頷いて、手を差し出してくれた。
上がるのを手伝ってくれるのだろう。
そっと手を握れば、グイッと引っ張りあげられた。
自然に意識しちゃうって……。
ポリポリと頬を掻く。
井宿はすでに岩に腰掛け、札を片手で持ち、もう片方で印を結びはじめた。
しかも何か唱えている。
邪魔をする気もないので、静かにその場に腰を下ろした。
途端に流れる水の音と、井宿の小さな声しか聞こえなくなる。
あぁ、これはこれで心地いい。
膝を立たせ、いわゆる体育座りをする。
自分の膝に頭を乗せると静かに目を閉じた。