ふしぎロマンス10~哀しみの序曲~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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長い廊下を歩いていると前方からものすごい勢いで近づいてくる小さな姿が見えた。
「お帰りなのだーーっ!」
久しぶりに聞くその高い声と、3頭身に縮んでいる姿に思わず堪えきれずに笑った。
「な、なんやあれ!?動物か!?」
「彼が井宿よ。あたしたちと同じ七星士。変わってないわねェ」
「あれが井宿!?嘘やろ!?どこがしっかりしとるんや!?」
「……初対面なのに君は失礼なのだ」
井宿の眉がきゅっとつり上がる。これは不機嫌になろうとしている……!
「井宿……彼が翼宿だよ。それからこちらは軫宿。そして、」
今がラストチャンス。一度、ゴクリと唾を飲み込んだ。
“張宿に扮した亢宿だよ”と言えればいいのに、この口は……違う言葉を発する。
「張宿だよ」
私は嘘を吐いた。
私たちの元へ戻ってきた星宿を見て、井宿は胸の高さで手を合わせ拱手を取る。
「“陛下”!ご無事で何よりですのだ!」
「井宿。身代わりご苦労だったな」
その声に顔を見なくてもわかる。動揺している3人の姿が。
「陛下……?」
「星宿さんが!?」
あの軫宿さえ驚いている。
無理もない。自分の国の一番偉い人だもの。
その中で一際大きな声で驚く声が聞こえた。
「えーと、翼宿……大丈夫?」
「こ、こここ皇帝陛下やてーーっ!!!?」
うん、いい反応ー。
それからの翼宿は、見ものだった。今まで見たことがないくらいにカチンコチンに固まっていた。
軫宿も今までの己の態度を思い出して顔面蒼白だ。星宿が助け舟を出してもまだ緊張している。
「翼宿、大丈夫だよ。星宿も仲間だって言ってくれたじゃない」
「お、おまっ……なんで言わへんねん……!」
「私にとって星宿は星宿でしかないから、すっかり忘れてた。この世界の住人でもなかったわけだし」
「オレらにとっちゃ、えらいこっちゃねん!」
「そこ!!早く座りなさいよ!!話ができないでしょー!」
気づけば長机に皆が座っている。
空いているところにまだ固まっている翼宿を連れて行って、強引に座らせた。私もその横に腰掛けた。
「七星士も全員揃った。あとは鬼宿だが……どうすれば鬼宿を連れ戻せるか……」
星宿の言葉を聞く。
鬼宿も奪還したいが美朱が倶東国で落としてしまった四神天地書も取り返さなければ、朱雀を呼び出す方法がわからない、と言うことだった。
「あたし行く!!」
やっぱり、美朱が名乗り出た。この子はそういう子だ。
鬼宿の事も大切で、自分が落としてしまったから四神天地書を奪われたと思っている。
美朱1人で行かせられるわけない。
「星宿。私も行きます」
「美朱も奏多も何を申す!!」
「私がこの先のことを知っているとしたら……?」
事情を知る者は息を呑んだ。これでわかってくれるだろうか。
この先がいかに辛く大変で、危険なことを。
「しかし」
「オイラがついて行きますのだ」
「井宿」
「放っておいたら1人で勝手に行ってしまいますのだ。それよりも、きちんと話し合って向かった方がいいと思いますのだ」
星宿は私を見てくる。
大丈夫。美朱を危険には晒さない。
その意を込めて、小さく頷いた。
「わかった。2人が行く前提で作戦会議としよう」
「陛下。それには鬼宿クンとも段取りを相談した方がいいですのだ」
「鬼宿と!?会えるの!?」
「で、出来るのだ……」
美朱が鬼宿に会えると知って、井宿にズズイ、と近づいた。美朱は返事を聞くと、一目散に自室に入っていった。
鬼宿に会うためにおしゃれをするのだろう。呆気に取られて見送った井宿がこちらに顔を向けた。
「奏多。今の間に少し話をしたいのだ」
「うん?いいよ。話せることなら」
「どこ行くんや!?ここで話したらええやろうが!」
「ハイハイ。あの2人、久しぶりに会ったのよ?つもる話もあるのよ」
「なんや!?あの2人デキとんのか!る」
聞こえてるっちゅーのに……。
井宿と別室に向かう中の、大きな翼宿の声にため息が出る。
前を行く井宿も聞こえていたに違いない。
「ほんと、早とちりばっかりするんだから……ありえないって言うのに」
「…………」
この声は長い廊下にスゥ、と消えていった。