ふしぎロマンス10~哀しみの序曲~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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あたりを見回しながら走る。
前方で炎が見えた。翼宿が応戦しているのだろう。
「美朱ちゃん!!」
追いついた。
真っ黒の塊に見えるほど、美朱を庇う星宿と翼宿のまわりにコウモリがいる。
近くにいるはずだ。
何処からともなく、笛の音が聞こえ始めた。
とうとう彼が動いたのだ。
「いた」
木の上に刺客がいる。
笛の音が刺客の脳を刺激しているのか、男は頭を抱え込んでいた。
このままでは、あの人も……死ぬ。
「やめろっ!……頭が……!!ぐぁぁああああ!!!」
私は弓を素早く構えた。
死ぬのは見過ごせない。
ヒュンッ!!!
「くっ……」
私の放った弓が、ある方向に飛んでいく。
笛の音が止まると同時に小さく呻く声が聞こえた。
でも、何かに刺さった感覚はない。
刺客の男の苦しく声は聞こえなくなっていた。
ヒュンッ!
刺客の男が荒い呼吸をする中、もう一度矢を放った。今度は苦しんでいた男の脚を掠める。
「ぐっ……」
「降りてきなさい。美朱を襲った罪は重いわよ。生きて償うことね」
「な、何が起こったんや……」
服をコウモリに食いちぎられたのだろう。
3人ともボロボロだった。
そこに現れる1人の少年に皆の視線が集まる。
同じように服がボロボロで所々怪我をした……腹部に“張”の文字。
お腹じゃない。その人は……亢宿だ……。
美朱をコウモリで襲わせた刺客は気絶しておりそのまま役人に突き出すという手はずになった。
笛の音で結果的に美朱や星宿、翼宿を助けた少年もその後気を失ってしまい、翼宿に担がれて家に戻ってきた。
軫宿も柳宿も起きていて、すぐに手当が始まった。
「軫宿は美朱ちゃんを診てあげて。私も少しくらいなら傷治せるの」
「わかった」
「オレは別にどうってことないで」
「私もだ」
手当をしようとすると、2人は先に……と彼に目をやった。
亢宿……。
この人は張宿じゃない、と言ったらどうなるのだろうか。それとも言おうとするとまた邪魔が入るのだろうか。
きっと私はここで……真実を教えてあげられない。
一度目を閉じると、静かに息を吐いた。
私は……共犯だ。
「張宿……」
意識のない彼に向かって、初めて偽りの名を呼んだ。胸がとても痛かった。
張宿の傷を癒し、服も元に戻した。
それから星宿へと向かう。
「私なら大丈夫だ。そなたこそ力の使いすぎは良くないぞ」
「大丈夫。私、前よりうまくなってきたの」
そう言って星宿の前に身をかがめた。大きく服が破けている腕にそっと唇をつける。
「そなたは本当に凄いな」
「すごいのは黄龍の力だよ」
星宿を治す時の視線が痛かった。じっと柳宿に見られている。そそくさと柳宿の横を通り、その場を離れた。
「……なんやねん。オレはいらんで!」
「翼宿……」
私が来ることを予感していたのか、近づくとササッと後ずさった。
「逃げられると少し傷つくわ……」
「んな……」
「ハイハイハイ!あたしが押さえといてあげるわよー」
「どわーっ!!裏切りもの!やめれ!!」
「さ、やっちゃって!」
「柳宿……」
柳宿は得意の怪力で後ろから翼宿を羽交い締めにする。翼宿がどんなに暴れても離れることはなかった。
「翼宿、すぐ終わるから……ね?」
「チッ……早うしてくれや……こいつ、馬鹿力で痛いねん」
翼宿の前に立つとその服の上に両手を添え、顔を胸に近づけた。
「……ッ……」
唇をつけたとき、翼宿の体が一瞬身じろいだ。
体を光が包み込む。スゥ、と傷口は綺麗に消え、服の破けも修復されていた。
「……ふぅ。はい、出来た」
「フラフラやんけ……治さんでええのに……」
この呟きには、へらっと笑った。
治せるなら私はいくらでも治す。この力がある限り。