ふしぎロマンス10~哀しみの序曲~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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「奏多、大丈夫?」
体を起こすと柳宿が背を支えてくれた。星宿は私の手を取りそっと包み込んだ。
「奏多、そなたは……どんな夢を見ているのだ。何を見ているのか話してはくれぬか?」
「…………」
チラリ、と横を見る。外套に身を包み静かに寝息を立てる美朱が目に入る。
……言えない。
夢だとしても鬼宿が鞭で打たれていたと知ったら、この子は何をするかわからない。また倶東国に助けに行くといいそうだ。
「星宿……夢のこと……覚えてないの」
「そうか……」
納得していない声が聞こえる。全員がそう思う中、軫宿が私の頭に手を乗せてきた。
目を向けると辛そうに顔を歪めて見ている軫宿と目が合った。
「気休めにしかならんとは思うが……」
そう言うと、温かな光が生まれる。その優しさに、涙腺が崩壊した。
「……ッ………」
「奏多……」
見られたくなくて顔を手のひらで隠す。
泣いて震える体を柳宿が優しい手で撫でてくれた。
目が覚めた。明るい日差しに目を細める。
あのあとは夢を見ることなくずいぶんと寝てしまったのだと、陽の高さでわかる。
「あら、起きたわね」
柳宿がひょこっと顔を見せる。
その様子がいつもと同じで、何もかも夢だったのではと思ってしまう。
でも……あれは……。
鬼宿のことを見たのは正直、夢とは思えなかった。
実際に起こっている時だったのか、過去を見たのか、未来を見たのか……。
「軫宿がまた魚、捕って来てくれたのよ。食べるでしょ?」
「……うん。少しだけ」
「食べきれるだけ、食べなさいな。翼宿ー、こっちにも火をちょうだいな。お湯沸かしたいのよ」
「オレの火ィは高いで~!」
「ハイハイ」
いつも通り。いや、いつも通りにしてくれているのだろう。
先に魚に食らいついている美朱に目を向ける。無邪気に頬張る姿に目を細めた。
心配かけさせちゃ、ダメだ。不安にさせるな。
パンッと両頬を叩いた。その音にみんなが振り返る。
「よく寝ちゃったわ!美朱ちゃん、あと1人の七星探しがんばろうね!」
「うん!」
「おっ?なんや村が見えてきよったで」
「あれ?ねぇ、柳宿!奏多さん!あれ、鬼宿の村だよね!」
「あ、ほんとだ」
「あらぁ!ホント久しぶりねぇ!」
「鬼宿の……?」
「うん!ここで井宿と会ったの!」
「そうなのか」
美朱が鬼宿の家族のことを話し始め、皆で家に行ってみることにした。
「朱雀の巫女様!?」
「忠栄くん!」
家に着くと鬼宿の弟が出迎えた。美朱がおじさんのことを聞くと弟たちと畑に行っていると教えてくれた。
案内してもらうと、咳をしながらも子供たちと一緒に農作業をしているおじさんの姿がある。
完全には治ってない……。私では治せなかったんだ。
「軫宿」
「あぁ。診てみよう」
軫宿に声をかけるとすぐに畑に入っていき、木陰に座らせるとおじさんに手のひらをかざした。
ポウ、と光が生まれると、今までとはまったく違うスッキリとした顔になった。
「これは……」
「父ちゃん!」
「これでもう……大丈夫だ。くすぶっていた病も完全に治った……」
そうだ。軫宿は力は体力を消耗するはず。
そばに駆け寄るとちょうど立ち上がろうとする軫宿に手を貸すことが出来た。
「奏多……」
「大丈夫?気休めにしかならないけど今度は私が……」
軫宿の手のひらに唇をつけようとした。でも今度はその手をいとも簡単に隠されてしまった。
「休めば治るものだ。お前に無理させるつもりはない」
「軫宿……これはおじさんを治してくれたお礼なのに。私じゃ……すべて治せなかったもの」
「……やはり、お前が治していたのか」
「え?」
軫宿が元気になって子供たちと笑い合うおじさんを見る。
「ここの環境の中であの程度の病で済んでいるのは、誰かが手を差し伸べたのだとわかる。町医者の薬では無理だ」
珍しく軫宿が饒舌だった。
「あの、お医者様。これお金……」
「そんなもんはいらん。イキのいい魚を父さんに食わせてやれ。……こいつの分もな」
軫宿に話しかけてきた忠栄に懐に入っていた猫を見せる。目に涙を浮かべて喜ぶと、忠栄は勢いよく駆け出した。
「にゃおん♪」
軫宿の猫が飛び乗ってくる。思わず抱きしめると、その顔を見た。
井宿みたい……。
キツネ、と呼ばれても納得出来るけれど、この子を見てるとやはり思い出す。喉を撫でると、ゴロゴロと鳴らした。