ふしぎロマンス9~治癒~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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「なんや、家があるて知ってたんか?」
翼宿の問いに軽く頷くと、私はその家の戸をトントンと叩いた。
「これは……薬やな。……ほんならここに医者がおるんやな」
翼宿も悟ってくれたようだ。私はもう一度、戸を叩いた。
留守かと思われた時、戸が僅かに開いた。
その僅かな隙間から、ぬっとこちらを見る姿に翼宿は飛び上がるほど驚いた。
まぁ初めて見るのなら、その出で立ちに驚くのも無理はない。
「……何の用だ」
髪ボサボサの髭を生やした姿ではピンと来ないが、声を聞いて、やはり軫宿だと確信する。
会いに来れた。美朱達が訪れる前に、危険な目に合う前に、軫宿にもう一度会えた。
「用がないなら帰れ……」
言いながら戸を締めようとするところに、手を差し込んだ。言わずもがな手が挟まる。
「おい!何しとんねん!!」
翼宿が咄嗟に戸をこじ開けた。
家の中でも、驚きで目を見開く軫宿がいた。
「……………」
「……………」
「………何やねん、この空気は………居心地わる~」
家の中に入ったものの私も軫宿も口を開かなかった。いや、私は話せないだけなんだけど。
翼宿はいたたまれなくなったのか、私に耳打ちしてくる。
「なぁ、このオッサンに会いに来たんか?」
「…………」
「医者みたいやけど知ってたんか?」
「…………」
「ほんなら明日、みんなで来たら良かったんちゃうか?」
「…………」
翼宿とのやり取りを、軫宿はじっと見ていた。
前の2つの問いかけには頷き、最後の問いには首を横に降った。
そして、私は軫宿を見た。次に喉に手を当てる。
「……口が利けんのか……昼間は話していたが……」
ぼそり、と声が聞こえた。
軫宿が口を開いてくれたことに少なからず安堵した。昼に会ったことも覚えていてくれた。
「今日はもう治せん。帰ってくれ」
“今日は”……。
それは、明日なら治してくれるということ?
そして……治せないのは昼間に私を治してくれたから?
「あんた医者なんやろ!?こいつの事、まだよう見とらんやないか!見もせんと、追い出す気やないやろな!?」
翼宿の必死な叫びに頬が緩む。ほんとにもう、この真っ直ぐなところは誰にも負けない。
(翼宿、ありがとう)
その言葉が言えなくて残念だ。
「……なんやねん」
どうすれば伝わるかと考えた末に、隣にいる翼宿の手に自分の手を重ねた。その手を見て、私に目を向ける。
その顔が少しだけ照れているように見えて、あ、伝わった……。そう思えて、嬉しくなった。
「話は終わりだ。帰れ」
軫宿が背を向ける。
治癒の力は……私に再生、出来るだろうか。
軫宿の前に回り込んだ。
背が高く、上から見下ろされるその目を真正面から見上げた。
目線を下にずらせば、体の横に下ろされた包帯で巻かれた手。その手をやんわりと掴んだ。
「やめろ。そんな願い事をされても治せない」
この人に手を引っ込められてはもう出来ない。
素早く包帯をスル……と外す。
両手に乗せ手のひらを上に向けると、そこに唇を落とした。
「!」
何が起こってるのかわからなかったのか、軫宿は呆然としていた。
程なくして、その手のひらに“軫”の文字が浮かび上がる。
「まさか……何をした……」
手のひらを包み込んだまま、その手を私の喉に持っていく。
お願いします。どうか、治してください。
美朱と……あなたの少華さんを救わせて。
気づくと嗚咽にも似た声にならない音が喉から出る。声が出せないのがもどかしい。
「お、おい……」
翼宿も驚いている。軫宿も、凝視している。
それでも構わない。
軫宿の手を握りしめる。
お願い。お願いだから、治して……。
「………手を放せ」
「!」
「お前!こいつ、こんな泣いてまで頼んどんのや!治せるんやったら治したれや!?」
軫宿が首を降る。
「違う。こうも握られていたら、治せん」
「ほ、ほんなら……」
呆気に取られていると、軫宿が右手でそっと私の手を開かせる。
長い前髪から微かに見える軫宿の瞳を見る。その目は、とても……とても優しかった。
「お前の声が聞きたくなった」
そう言うと、そっと私の喉に手を当てた。
ポゥ、と暖かな光が現れる。この光がまた見れて、心からホッとする。
「ど、どうや?声、出せそうか?」
「…………」
軫宿の手が喉から引いたことで、翼宿が覗き込んでくる。
そっと喉に手を当て、ゆっくりと口を開いた。
「………ぁ………」
それは確かに、声が出ている感覚だった。