ふしぎロマンス1~本の中へ~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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「君とオイラは初対面のはずなのだ。なぜオイラの名を知っているのだ?」
目の前で錫杖を構えたまま、その人は口早に告げる。
そんな雰囲気に圧倒され、声にならない。
それが却って彼の意に反したのだろう。
錫杖を構えていない左手までも……顔の前に手をやって印を結ぼうとしている。
「ちょ、ちょっと待って……!」
「何者なのだ」
誰なの、この目の前にいる人は。
怖い。正直に言うなら、先ほどの人たちより怖い。
私はいたたまれなくなり、思わず懇願した。
「ごめんなさい!ごめんなさい!怪しいだろうけれど、怪しいものじゃないんです!」
「…………」
その無言はやめてほしい!!
ドクドクと心臓が鳴る。
この人には信用してもらわないと、ここでの生命に関わる。
そう本能的に悟った。
「お願いします!正直に話しますから、術使わないで……!」
「…………」
両手を顔の前で剃り合わせて、彼に向かって必死に伝えた。
無言がかなりの時間に思えたが、彼は錫杖を構えるのをやめてくれた。
「……話してみるのだ」
でもまだ警戒している声だった。
それでも彼は聞いてくれた。
ここの世界に来て初めて“私”を見てくれた。
初めて……
耳を貸してくれた……
「……今の……話を信じろと言うのだ?オイラに?」
「はい……すみません……」
話してしまった…………。
別の世界に住んでいて、そこでこの世界のことは物語として語り継がれている。
だいぶ掻い摘んだけれど、嘘ではない話だ。
すべてを話し終わったあと、彼は口を開いた。
思わず謝罪の言葉が出る。
「未来……異世界の……女の子……」
まるでここに私はいないかのように1人でブツブツ呟く。
私の耳に少しだけ届く言葉に、意識を集中した。
「………では、この者が……巫女……?」
“巫女”と聞こえて、慌てて顔を見る。
同じように彼も、ジッと私を見ていた。
「違います!巫女じゃないですよ!」
「……違う?」
「巫女はちゃんと別にいます!若くて可愛い女の子!」
私が口を開けば、また黙り込んで何やら考えている。
「あのー……」
「考えてもちっとも答えが見つからないのだ」
「え?」
「あの方に聞いてみるのだ」
「えっ!?」
そう言うなり、肩の後ろにあった笠を被ろうとする。
「ちょっと待って!!」
笠を持つ腕に手を伸ばす。
このまま……
消えさせてなるものか……!!
「放してほしいのだ」
「でも!太一君の所にでも行く気でしょう!?」
「!?」
「置いて行かないよね!?」
「…………」
「あ!置いていく気だったの!?」
なんてこと………!!
必死にすがり付いた。
ここで放していなくなったら……
私はどうしていいかわからない!
「君を連れていくことは出来ないのだ」
「それは……!わかりますけど!」
キツネ顔の眉が下がる。
困らせているのがわかる。
「お願いです!……少しでいいので一緒にいてください!」
「何を……」
「ここで、生活できるようになるまで……」
「…………」
腕をつかんで放さないまま、顔を俯く。
言葉にして、改めて襲いかかる不安に心が折れそうだ。
知らない世界……いや、知っているといえば知っているけれど、私には何の力もなくて。
ここに来た理由もわからない。
「お願いします……」
折れたのは……彼だった。
「ハァ……」
「井宿、さん……?」
「自分の世界に戻れないような言い方をするのだ」
「え……?」
「戻ることが……出来ないのだ?」
薄々感じていることがあった。
巫女は太一君や、七星士の力を借りて現代に帰ることが出来たけれど、私には七星士はいない。
「帰る方法……想像できないんです……私には」
「…………」
「だから、ここで暮らせるようにならなきゃ。そう思うんです」
掴んでいた腕を放す。
もう、これで去ってしまうのなら仕方がない。
「……わかったのだ」
「えっ……」
「少しだけ、君の面倒を見てあげるのだ」
その言葉がこんなにも嬉しいとは思わなかった。
彼女も、嬉しかったのだろうか。
親友と離れ、人に襲われ助けてもらい、お礼をしようと皇室の行列に突っ込んでいくという無茶もする。
まさに丁度、同じこの町で、ある一角が赤く光る。
だがその光がすぐに消え、私はもちろんのこと、敏感なはずの井宿も目の前のことに意識を向けていたためなのか、その光に気づくことはなかった。