ふしぎロマンス1~本の中へ~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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揺れが止まった。
風もやんだ。
そして……
掴んでいた感覚も消えた……。
「と、おる…くん……?」
私はあたりを見回した。
さっきまでしがみついていたはずなのに……
私の体を包み込んでいてくれたはずなのに……姿が見えない。
探さなきゃ……そう思うも体が動かない。
いや、思考さえも上手く働かない。だって……
みんなが私を見ているーーー。
「な、に……なんで……」
思わず呟かれた声。
しかし、その声に答えてくれる人はいない。
座り込んでしまっていた自分の体に力を入れる。
立って、そう強く思わないと立つことも出来なかった。
「透くん……探さなきゃ」
一歩、足を踏み出した。
すると、これでもかと言うくらいに……私を見ていた人が後ろに引いた。
こんなはっきりとした“嫌悪”を目の当たりにしたのは初めてだった。
ここにいる人の中で、私だけが異質だった。
ブラウスにタイトスカート。
完全に仕事帰りの服。
それに対して、この道を行き来している人たちは皆、着物のようなゆるいシルエットの服を着ている。
中国みたい……
そう思えてならなかった。
「もし、どうなさった?」
その声は突然背後から肩を叩かれるとともに耳に届いた。
振り返ると男性が2人、私に向かって微笑んでいる。
「あ……」
ここはどこですか、そう聞こうと思った。
でも彼らの次の言葉に言葉が詰まる。
「きっと異国人だ」
「そうだな。言葉はわからないだろう」
「……上玉だ」
私の中で警告音が鳴った。
まずい。これは絶対……まずい。
「ご安心なされよ」
人当たりのいい顔。
きっと、先程の言葉を聞いてなかったら、信じてついていきそうだ。
でも私は悟った。
この人たちは……
私を連れ去ろうとしているーーー。
「結構です!」
「なに……!」
「待てっ……!!」
言うなり勢いよく駆け出した。
むしろ気持ちばかり先走って足が空回りする。
しかもこの砂利のような地面。
パンプスでは非常に走りにくい。
……すべる!
どんどん息も上がり、速度もかなり落ちてきている。
捕まるのか。でもあれに捕まったらどうなるのか、考えただけで恐怖が押し寄せる。
「はあっ…はあっ……!」
もうこれ以上はダメかもしれない。
どこまでついてくるのか……
気持ちが、負けた時だった。足を止めようとしていた体に痛みのような感覚が押し寄せた。
パシッーーー!
ついに捕まった、と思った。
でも……
聞こえてきた声に……
耳を疑った。
「走るのだ!」
……のだ?
「まだ追いかけてきてるのだ!」
……のだ?
なんだ?
何が起こってる?
この……耳に馴染む声は……
左の手首をつかむ手に目を向ける。
それから腕……背中……頭……。
私の前を走る姿を確認。
と同時にポカン、と口を開けてしまった。
思わず立ち止まりそうになる。
「何をしてるのだ!?」
「えぇ?」
「何なのだ!?助けない方が良かったのだ!?」
振り返った顔は……キツネ?
でもその顔が少しだけ不機嫌に見えた気がする。
立ち止まりそうになる所を、再びすごい力で引っ張りあげられた。
そうだ。
逃げてるんだった。
ハッとして、自分の力でも走り出す。
そして後ろを振り返ると、ものすごい形相で追いかけてくる奴ら。
「怖っ!」
「怖いならもっと早く走るのだ!」
「そんな事言われたって……全力です!!」
「だっ!?」
これで?と言わんばかりの声が聞こえてくる。
わかってほしい。
足の広がらないタイトスカートにストッキングを履いたパンプス。
滑りがあって、非常に走りにくい。
何度もコケそうになっては、前方を走る人に救いあげられる。
こんなことが……
なぜ起きている……?
ものすごい距離を走り、ものすごい数の曲がり角を曲がって、ようやく速度が緩やかになった。
……限界です……。
ほんと、もう………ムリ………。
立ち止まった瞬間に、空いている手を膝に乗せてゼェゼェと息を吐く。
(喉……血の味がする~~……!!!)
うぇ……と思いながらも今も繋がれた手首の先にいる人を様子見る。
一息ついただけで、もう普通に呼吸をしている。
あたりをキョロキョロして……
バチッと目が合った。
いや、目が空いているのかわからないくらいの糸目だけれど。
(って、そうじゃない!この人……この人は……!)
「井宿!!」
「!?」
思わず名を呼ぶ。
そうだ。
この人は井宿。
あの物語に出てきた……七星士の1人。
でも私は次の瞬間には後悔した。
彼が……
私に向かって……
錫杖を構えていた…………。