ふしぎロマンス12~錯誤する想い~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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張宿に駆け寄ると、その笛を持つ腕を掴んだ。
私の行動に誰もが注目する。
それもそのはずだ。
今まで必要な時こそ話はしたが、普段近づくことすらなかった私が、自分から近づくだけでなく触れているのだ。
「奏多さん?何か……」
「ちょっと奏多、邪魔しないでよ」
「……張宿」
「は、はい」
「少し、散歩に行こう」
「えっ!?僕とですか?」
「うん、あなたと」
戸惑う張宿の手をとる。そのまま引っ張って部屋を出た。
これで……みんなは音を聞かせなくて済む……。
「あの……どうしたんですか?」
散策ができるような中庭に出た。
肩を並べて暫く歩くものの、すぐに張宿が足を止める。
私も数歩行ったところで足を止め、振り返った。
「正直に言うわ。あなたの笛……聞かせたくなかったの。ごめんね」
張宿……いや、亢宿は目を見開いた。
それから何を考えているのか、探るような眼差しを向けてくる。
「奏多さんは、先のことがわかるんですよね」
「……そうね」
「それじゃあ……僕がしようとしてることも、わかるんですね」
静かな声だった。全てを受け入れる。そんな声。
だから……私も素直になった。
「ええ。わかるわ。あなたの事も。最初から」
「……わかっているのに、どうして今まで黙っていたんですか」
「言えなかったの。先のことを話すと、頭が痛いのよ。それはもう悶絶するほど」
「僕はもう、止められません」
「私も止めないわ」
「え?」
「でも、あの人たちを傷つける行為なら私は止めるわ」
「……………」
「だからあなたの笛は、聞かせられないの」
「全て……知ってるんですね」
そう。知ってるの。
だから……あなたがどうなるかも、わかるの。
近づけば……亢宿にしか聞こえないくらい小さな声なら言えるかもしれない。
亢宿に近づくと、その体に腕を回した。
ビクリと固まるその体を抱きしめた。
「気をつけて」
「…………」
「河のそばには……行かないで……あなたが危ないわ。生きて……亢宿」
「っ……」
そっと耳の近くで呟いた。
亢宿は彼らにとって敵。
それなのに今からこの子に起こることを考えると、とても胸が苦しくなる。
「あなたに近づかなかったのは張宿じゃないと言いたくなるからよ……」
「はい……」
「あなたが嫌いなわけじゃ……ないのよ……」
「……はい……」
互いに、目から涙が出ていた。
もう今夜だけだ。彼とこうして話せるのも。
どうか……無事でいてほしい。
「それじゃ、先に戻りますね。奏多さんとそんな顔で戻ったら、怖いや」
「はは……お気遣いありがとう」
亢宿はぺこ、と頭を下げると中に戻っていった。
明日になれば……彼には会えなくなるだろう。
とてもいい子なのに……どうしてこう、みんなでいつまでも楽しくやっていけないのだろう。
「奏多?そこにいるのだ?」
「!?……井宿?」
目を凝らして見ると、スッと井宿が暗闇から出てくる。
「……散歩は終わったのだ?」
井宿があたりを見て、私に視線を戻す。
「あ、うん。井宿は?」
「オイラは“気”を張りに来たのだ」
「気……」
明日に備えてるのがわかった。
これからのこと、井宿に言ったら……変えられるだろうか。
「……また何か起こるのだ?」
「え?」
「君がそんな顔をしてる時は、何かある時なのだ」
「……そんなわかりやすい顔してるかな」
「………ふっ」
笑った!?
しかも、小馬鹿にした笑いをしたわね!?
「今度は怒ったのだ」
「もう見なくていいから!!」
「……さっきは泣いてたのだ。張宿と」
「…………」
見られていたのか。
話は……話も聞かれていたの……?
「遠くから見えただけなのだ」
「……そ、そう」
「あからさまにホッとした顔をしてるのだ。だからわかりやすい」
「……そんなこと」
「君は……あんな少年にも……」
「え?」
井宿の声が、静かな闇に溶け込んでいく。
それほど低くて、消え入りそうな声だった。
「もう部屋に戻るのだ。皆ももう戻っているのだ」
「あ……うん」
井宿は私が張宿に迫ったとでも思っているのだろうか。
そんなことじゃないのに……。それでも否定ができない。
チラ……と後ろを振り返れば、井宿は既に数珠に手をかけ、気を集中させていた。
明日になれば、彼も知るだろう。
私が、亢宿に別れを告げていたということを。