「おい！わかるように説明せえや！！」
「いいよ。もう一度言ってあげよう」



彼が頭上からスゥ、と降り立つ。そうすれば、更に翼宿と井宿が警戒した。



「説明しろと言う割には、君たちは敵か味方かも区別つかないの？」
「……君はどちらかがわからないのだ。だから警戒する。それだけなのだ」
「まあ、そうだね。でも……思いは同じだ。今、君たちが必死に俺から護ろうとしている人。俺はその人をずっと護りたいと思っている」



私と目が合った。
彼はずっと言ってくれていた。私を護りたいと……。
でも私はそうまでして護ってもらう価値のある人間ではない。



「……悲しませたくなくて、帰して、代わりに星宿の御霊も取り入れた。今から軫宿、君のも……と思ってきてみれば軫宿は生きているし、君は戻ってきてしまっていた」
「透くん……私、」
「星宿様が……あんたの中にいるっていうの……？」
「そうだよ。朱雀が復活すれば、きっとここに字が浮かび上がるだろうね」



透が首に手を当てる。首は、星宿の字が浮かび上がるところだ。



「なんでや……お前もそないなこと出来るんか！？」
「俺だって“黄龍の依り代”だからね。奏多が張宿を取り入れていることは君が夢で会いに来た時に知った」
「だから……あとは任せてって言ったの……？」
「……それもあるね」



この話を聞いていた柳宿が堪らず、透に掴みかかった。



「柳宿！！」
「あんた……だったら、星宿様助けなさいよ……！！！」
「……………」
「あの方が……いらっしゃらないだけでどれだけの人が悲しむと思うのよ！！」
「……俺には……治癒力はない。再生能力もだ」
「あんたのその破壊の力で心宿を殺しなさいよ！！そんなことも出来ないわけ！？」



柳宿の気持ちを思えば、ダメなのかもしれない。
でも……でも、それだけは……っ。



「柳宿……お願い。彼に人を……殺めさせないで……」
「奏多………」



どうしたら気を鎮めてくれるだろう。
きっと何をしても償いきれない。星宿はもう……戻ってこないのだから……。



「あんた……何やって……」
「柳宿……みんな……ごめんなさい」



何をしてもダメだろうけれど……私は膝をつき、地面に額をつけた。



「……や、やめぇや……！何しとんねん！！」
「奏多……！そんなこと君がする必要は無いのだ！」



ぐっと体を引き上げられようとする。
それを必死に拒んだ。



「あなた達の大切な人を……救えなかった！私の……私のせ……」
「やめるんだ！奏多！！」



透が叫んだ瞬間、体が風によって浮かび上がる。
ふわっと彼の元へ風がそのまま運ぶ。



「君にそんなことをさせるために……俺はここに来たわけじゃないよ」



透が体を抱き包むと、そっと腰に触れてきた。



「おい！何しよんねん！！」
「……ちょっと黙ってなよ。何もしない。今は……ね」



腰からそっと手を離すと、トンと私を後ろに押した。よろけながら下がると、すぐに翼宿に引き寄せられる。



「奏多、こうなったらもう君にも見届けてもらうよ。倶東の軍は引き始めている。星宿も、その体は宮殿に運ばれているだろう」
「っ………」
「君は次のことに頭を切り替えるんだ。本当なら君から黄龍を奪い取ろうかと思ったけれど、彼が俺を受け入れてくれなさそうだ」



また透のまわりに風が集まる。黄龍を奪い取るとは、一体どういうことなのだろう。



「ただ、まだ君には黄龍は必要だ。でももう彼と契約しないで」
「契約……？」
「君はその姿になった時にしたはずだ」



もしかして、この世界に戻るために黄龍を受け入れたこと。あれが契約になるのだろうか。



「約束だ。もう契約してはいけないよ」



再度、風が吹いたかと思ったら、もうそこに彼の姿はなかった。



「透くん……」



彼が触れた腰の部分。手で触って確かめる。
確かここは……依り代としての証があるところだった。