ふしぎロマンス22~呼びかける声~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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バスは遅い時間だったからか、女性が3人だった。
一番後ろに3人で座っている。乗り込む時、運転手さんにもメチャクチャ見られた。視線が痛かった。
だよね……この人たち何者!?って……思うよね……。不審者じゃありませんから!
「……奏多?」
「シッ。黙ってて」
「………だ。」
訳もわからず座らされた翼宿は目をパチパチさせていた。
………うん。わかるよー。
これ、何!?あれ、何!?ってなるよね。
もう……早くついて………。特に女の人たちからの視線が痛い!!
バスが動き始めた。今までどうにか驚きをぐっと我慢していた翼宿が、とうとう声を上げた。
「どわっ……!動いたで!?」
「シッ!!お願いだから、シーっ」
「うっ……お前な……」
「翼宿……黙ってないといけないのだ……」
「わ、わかっとる……せやかて、動いとる……なんや、この乗りもんは……」
バスです。
………はあ、先が思いやられる………。
彼らが黙れば、シン……と静まり返るかと思った。でもそれは微かに聞こえてきた。
「……ね、激似じゃない?」
「思った!!」
「やっだ、すっごい懐かしいんだけどー」
「あれじゃない?コスプレ帰りとか!」
「えー?そんなことあるー?」
………嫌な予感しかしない。
ああ、早く……早くついて……!
「あっ!見て!顔ちょっとこっち見た!ホント似てるんだけど……!てかかっこいい!!」
「そんなイケメン?ウィッグには見えないから地毛かな?」
「ねねっ、服もすごいよ!」
コソコソと話していた声が段々と大きくなってくる。
まずい……この人たち………同類だ!!
あの本の読者様だ………!
「……奏多、顔色が悪いのだ。大丈夫なのだ……?」
「こっち見ないで。後ろを振り返っちゃ、ダ……」
「後ろ?」
「やだー!すごい!ホントに井宿みたいなんだけど!!!」
「……だっ?」
…………終わった………。
ここがバスの中というのも忘れて、とうとう近寄ってきた。
なぜ……よりにも寄ってあの本を知っている人なの……。
「あのぉ……」
「あ?」
「キャー!!」
「翼宿だー!」
「!?!?!?」
「すごいかっこいいー!」
彼らの前に回り込んだ3人が、翼宿を見て甲高い声を出した。
「な、なんや……?」
「うそ!!!声までそっくりじゃない!?こんなだったよね!?本物みたいー!」
…………本物です。
本人です。
いや、興奮しすぎでしょ。
私も……こんな風に出会っていたら、こんな大騒ぎしたのかしら。
いえ、この人たちも実際にあの世界に行ったら……嘘のような現実を見たら、こんなキャアキャアとは言えないわ。
「あの!何かのイベント帰りですか!?」
「はっ?なんや、それ。……なぁ、井宿。こいつらなんなん?」
「わからないのだ……」
「すごい!言葉遣いまで……!クオリティ高いですね!その服、今まさに戦ってきたみたい!!」
………戦ってきたんだって。
彼女達は汚れた井宿の服を触った。
………む。
なんでじっとしてんのよ。
「これ、あなたが用意して着てもらったの?すごいわね!」
「え……?」
「翼宿と井宿が好きなの?私、柳宿が好きだったの」
「柳宿……」
「中学生の頃だったんだけど、柳宿が死んじゃった時は大泣きしちゃった」
わかる……私もだよ。
でもね、柳宿は生きてるよ。
「どうして死なせるのよー!って今でも思っちゃう。私も美朱みたいに本の中に入ったら絶対に助けるのに!って思ったこともあるのよ」
………っ……同じ……。この人も同じこと思ったんだ。
「本の……中?」
じ、と聞いていた井宿が私を見てくる。
戸惑いの眼差し。
「どうして君は……オイラ達のことを知ってるのだ?」
「え……?何、ホントどこまでなりきってるの?」
彼女達も驚き始めた。
………まずい。
彼らには言わなければ、と思っていた。
…いえ、本当は言わなくて済むならと思っていなかっただろうか。
その時、彼女達の降りるバス停についた。彼女達は最後にそれぞれと握手を求めてきた。
「なんや?握ればええんか?」
「はいっ」
「……変なやっちゃなあ……」
それでも律儀に翼宿と井宿は応えた。嵐のように過ぎ去ってようやく静かになった。
「なんやったんや……今の」
「オイラ達を知っていたのだ……」
「オレら有名やん」
「そこでそう考えられる君が少し羨ましいのだ」
「……家に着いたらちゃんと話すわ」
そう呟くと彼らはそのまま、私が「降りる」と言うまで黙って座っていた。
「ここが、君の家……?」
「どんだけ部屋あんねん!」
「……違うから。これ全部が私の家じゃないから。ここの2階なの」
3階建ての賃貸マンションを一つの家だと思ったらしい。
私だってこの部屋数あったらどれだけいいか……。
いいえ。一人暮らしには一部屋で充分ね。
「どうぞ。あ、そこで履物は脱ぐのよ」
「狭いなあ……」
「狭くて悪かったわね……」
……なんって、不思議な光景なの。私の部屋に翼宿と井宿がいるわ。