「やはり皆、能力が使えないか」
「はい。重たいものが持てませんわ」
「オイラも術が使えませんですのだ」
「星宿……ごめんなさい。あたし……紅南国を護れなかった……！」
「良いのだ、美朱。お前も皆も本当に良くやってくれた。それで充分だ」



星宿の前に、張宿が寝かされている。もう、目を開けることのない張宿。



「我々、紅南国は倶東国と戦う決意だ。我々は最初から朱雀の力に頼りきっていた」
「星宿……」
「たとえ勝算がなくても諦めはしない。大切なものを護るには……１人１人が立たねばならぬのだ」



星宿が決意した。どうやっても、勝ち目がない戦。
止められないの？何度となく倶東国……青龍七星士と会っていたのに……？



「星宿……」
「うん？どうした、奏多」
「心宿に会いに……行かせてもらえない？」
「そなた……今、なんと……」
「奏多！あんた、何言って！！」
「ダメなのだ！」
「そ、そうだよ！奏多さん！」



ここにいる全員に止められる。
危険だと。そんなことはわかってる。あなた達は本当に……優しすぎるわ。



「心宿に頼んだら……どうにかなるかもしれない……」
「奏多！！その口閉じなさい！！」
「聞いて……！彼にも辛い過去があるの！紅南国に恨みがあるわけじゃないのよ。だから……！」



言い終わる前に、二の腕を掴みあげられた。
それは痛みを伴うほど、強く……。



「なに……するの井宿……」
「来るのだ」



井宿は星宿に頭を下げた後、有無を言わさず私を引っ張るように歩き出した。



回廊に出たあたりで、向こうから物凄い速さで走ってくる鬼宿と翼宿の姿がある。
その後ろに、悠然と歩く軫宿と一人の女性が。



あの人は……鳳綺さん？
柳宿にそっくりな人。
あぁ、星宿はちゃんと見つけたんだね。



今もなお腕は強く掴まれているけれど、星宿のいる部屋に入っていく様子を目の端に捉えながら、よかったと心の中で思った。



そして同時に……星宿をなくせない、とも。
















「君は何を考えているのだ！？」



……今日はなんて厄日なのかしら。
朝からとんでもない日だわ。



「聞いてるのだ！？」



いつから井宿は怒りっぽくなってしまったのか。
ある一室に連れられた私の目の前に眉をきゅっも釣り上げた井宿が立っている。
ここで怯むわけにはいかない。
また行動しないなんて後悔するに決まっている。



「聞こえてるわよ！！もう！何なの！？邪魔しないでよ！！」
「邪魔？君はオイラが止めなくては今にでも出て行きそうなのだ！」
「行きたいわよ！！行って、この戦を止めてもらうわ！」
「どうやってなのだ！？心宿に何を言って止めてもらうというのだ！？その身を捧げるつもりか！！」
「っ……！」



叫び声が轟き渡った。どちらも引かない。引けない。
でも……最後の言葉があまりにも悲痛な叫びに聞こえて、思わず言葉を呑んだ。



「井宿……彼だって人の子よ……？悪い人じゃ……」
「そんな相手ではないのだ！」
「……まだ言ってる途中なのに……」



ダメだ。これは絶対見逃してくれない。
意外と頑固……。



「頑固と思われても行かせられないのだ」



……なぜわかる！？術は使えないのに、なんで心が読めるの！？



「ダダ漏れすぎてるだけなのだ」
「……そのお面、私にも貸して欲しいくらいだわ」
「…………」
「冗談よ。外さないでいいわよ」



ふぅ、と一呼吸ついた。
落ち着かなくてはただの言い合いにしかならない。



「井宿、聞いて。今、唯ちゃんが１つ目の願いを叶えてもらって苦しんでる」
「…………」
「巫女は願いを叶えてもらう度に喰われるのよ」



井宿が顔を歪める。



「２つ目の願いは唯が美朱と共に元の世界に戻ること。それなのに美朱の世界に鬼宿も行ってしまうの！角宿も心宿も、あなたや翼宿だって！！」



そしてこれからたくさんの命が……。
思うだけで怖い。頬を知らず知らずのうちに涙が流れた。



「行かせやしないわ。唯を止める。美朱たちの世界に行くべきじゃない。戦さえなければ、星宿も軫宿も死なない！全指揮をする心宿を止めるわ！」
「………それでも……ダメだ」



腕を、引き寄せられた。ふわっと頬に手を添えられ上に向かせられると、目の前には真剣な顔があった。



「行かせられない。ここにいるのだ」



そう、至近距離で呟くと……さらに近寄った……。