ふしぎロマンス21~予期せぬ事態~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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「ホントに、張宿……あんたなの?」
抱きしめられた奏多が柳宿の背に腕を回す。
「はい、柳宿さん。僕です。あ、でもちょっと苦しい……」
「あんた……なんであんなこと……寂しいじゃない!」
「柳宿さん……」
柳宿は体を離すと、一度、目元をぬぐった。
「張宿。君は……奏多の中にいるのだ?」
「はい。あの時、奏多さんが僕を受け入れてくれたんです。僕は吸い込まれるように、奏多さんの中に入っていました」
「そないなこと……なんで出来るねん!!」
信じられないと言ったように、翼宿が詰め寄る。
張宿が奏多の体を見下ろす。そして、足を布団から出した。
「字が……出とる……」
翼宿の声の通り、足の甲に“張”の文字が浮き出ていた。
「奏多さんが“黄龍の依り代(よりしろ)”だから出来たんだと思います」
「それはつまり……憑依した、と言うことなのだ?」
「そう取ってもらっていいと思います。僕は人としては遂げました。ですが……七星士としてはまだ、生きています」
「張宿……あ、あんたね……まだ、子供なのよ……っ」
「そや!まだまだ沢山、やりたいことやらなアカンやろ!!」
柳宿と翼宿の目が潤み始める。それを見た張宿は、そっと手を持ち上げた。
奏多の手だ。その手が、2人の手を握る。
「僕はこれでよかったと思っています。僕、ちゃんと聞いてました。翼宿さんが、“ええ男や”って言ってくれたこと。すごく、嬉しかったです」
「ちり、こ……そうや。お前はホンマにええ男や」
ついに翼宿の目から一粒の涙がこぼれ落ちる。拭われることなく、落ちるその涙を張宿は見上げた。
「明日になれば、朱雀七星士の力が消えます」
「……それは、間違いないのだ?張宿にはわかるのだ?」
「……はい。奏多さんの中に入って、奏多さんの心情がわかりました」
張宿は2人の手を離すと、今度は井宿に向き直った。律儀に、寝台の上で正座をする。
「僕は字が出ないと力を貸せません。明日になれば、僕はもう伝えられない。だから……井宿さん」
「……なんなのだ?」
誰もが言葉の続きを待った。奏多の体を借りた張宿が、そっと三つ指をつく。
「どうか……奏多さんを安心させてください」
「………張宿……」
「奏多さんは今、とても心を苦しめています。それは……わからなくもないんです。奏多さんの心情がわかって、気づいたことなんですが、僕達は、本……」
そこまで言って、張宿は何を思ったのか口を閉じた。
「……いえ、これはまだ言わない方がいいですね」
「え……何よ、気になるじゃない」
それでも、張宿は首を横に振った。
「いつかきっと、奏多さんが打ち明けてくれます。でも……今はそんなこと関係ありません。奏多さんを安心させることが出来るのは、井宿さん。あなたです」
「……なぜ……オイラが何をしたら……」
「笑ってください。たくさん話をしてください。井宿さんも、肩の力を抜いていいと思います」
「井宿、あんた言われちゃったわね」
「…………」
「ホンマ、腹立つわ」
張宿がふと、考え込んだ。
「……そろそろ体を返さないと……すみません。僕はもう、戻ります」
「そや。奏多……こいつは今、どうしとるねん」
「奏多さんは今、とても幸せな夢を見ています。でも、そろそろきちんと眠らせないと……だから……」
「き、えるわけ……?」
柳宿が体を震わせる。
「消えません。また、朱雀が現れれば僕はまた……奏多さんが黄龍の依り代である限り、僕は奏多さんの中にいます」
柳宿を安心させるために、張宿はふわっと笑った。
そのまま、静かに横になる。
「張宿……!」
「奏多さん……ありがとうございました。お体、お返しします。僕は少しだけ……休みます」
そう囁くと、スゥと眠りについた。静かに寝息を立て始める。
「……見て。奏多ったら……笑いながら泣いてるわ」
「………器用なやっちゃな……」
そう言いながら翼宿も、フッと笑いながら目尻をやや乱暴にぬぐった。