「はあっ！？翼宿！本気で言ってるわけじゃないでしょーね！？」
「本気や！！こいつが好きや！！お前には言うとかないかんと思てな！」
「ふ、ふざけんじゃないわよ！！」



………わ、若い。
何この会話……。



「モテモテなのだ。“はぁれむ”なのだ」
「え、井宿……どっからその言葉知って理解したの」
「美朱が言ってたのだ」



……なぜ学習した！？
井宿のことだから、絶対知らなくてもいい横文字の言葉には興味はないだろうと思っていたのに。



「ついでに“ますこっと”についても聞いたのだ」



……ほら、やっぱりぃー！！



「……美朱ちゃんに聞いたの？」
「だ」



うう……別に聞かれて困る単語ではないけれど……。



聞けば美朱は、“かわいい人形のことだよ”と教えたらしい。



「オイラは人形なのだ？」
「違うって！そっちじゃなくて、“かわいい”ってことよ」
「……かわいい？」



……正直、最近は可愛さはありませんけどね。



「なんて言えやしないしー」
「……顔に出ているのだ」
「……………」
「別にかわいくなくていいのだ」
「あ、はははは！そんな、怒らないでよー」



あれ、なんだか……普通に話せてる。
少し……ほっとする。



「……ねえ、翼宿……あの2人ってどぉゆーこと？」
「知らん。せやけど、オレの言いたいこと、わかったんとちゃうか？」
「ええ、そうねー。痛いくらいにわかったわ。………すんごい腹立つ」
「せやろ。キツネ顔の癖して腹立つやろ」



翼宿と柳宿が遠巻きにこちらを見ている。
しかもかなりのジト目だ。



「……なんなのだ」
「ずるいわよ、井宿」
「男ならちゃんと勝負せい！！」
「それは……オイラも君たちと同じ恋情を奏多に抱いている、と言いたいのだ？」
「そーよ！」
「わかっとるやないか！」
「ちょ、ちょっと柳宿も翼宿も何言ってるの！？」



いや、本当になんなの？この会話！
井宿になんてこと聞いてるの！？



井宿がそんな……そんなこと……。



見なきゃいいと、聞かなきゃいいと思うのに、どうして止められなかったのだろう。
どうしてこんなに胸がドキドキして、待っているのだろう。



………打ち砕かれるのに。



「そんな気はないのだ。それに……夢は、夢の中で見るものなのだ」



その素っ気ない言い方が、胸に突き刺さる。
もう、ほんと……なにを期待していたの……？



「……ほ、ほら……冗談言ってる場合じゃ……ない、から……」



やばい。声が、震える。



私、笑えてる？
引きつって、ないよね……？



「井宿……あんたねェ……」
「……なん、や……それ……」



とても嫌な空気だ。
こんなのは、いけない。絶対、ダメだ。



「ふ、２人とも！わ……私、もう寝るから！大人しく、寝るから！ねっ？」
「奏多……」
「ホンマか？」
「ホンマ！ホンマ！！」



それで一触即発の状態から抜け出せるのなら、お安い御用だわ。



本当は……星宿のところへ行きたかったけれど……。
渋々、横になった。



「……奏多」



布団に潜り込んだところで、井宿が声をかけてきた。
心臓、うるさく鳴るな。いつも通りにするのよ。



「……なに？」
「こんな時に君に異空間に入られては困るのだ。いつ術が使えなくなるか……だから、これを身につけていて欲しいのだ」



そう言われて左手首を取られる。
あの話の後でこの流れ。……思わず手を引っ込めなかっただけ、えらいわ、私。



「数珠？」
「星宿様と相談して、井宿がそれに念を込めたものよ。腕輪ならずっと付けていられるでしょ？」
「異空間から戻りたい時、この数珠を握りしめるのだ。そうすれば、帰ってこれるのだ」



そんなことが、出来るの？
すごいわ。というか、最初からこれを作って欲しいわ。



「……念を込めるのも、そう簡単にはいかないのだ。今のオイラだからできることで……」
「うん。井宿、ありがと」



腕を持ち上げて数珠を見る。井宿が首からかけている数珠によく似ていた。



確かにこれがあるのとないのとでは、随分と違うようだ。



私は、すんなりと眠りに落ちた。