いま、私は何を打ち明けられたのでしょうか。



やばい。
思考が追いつかない。



「……おい、無反応かいな」
「あ……えっとー……」
「聞こえんかったんか？もいっぺん、言ったろか？」



そう言うなり、翼宿が耳元近くに唇を寄せる。



「オレはお前に惚……」
「わー！！！聞こえてます聞こえてます！聞こえましたからー！！」
「…………」



ダメだ。
心臓がうるさいくらいにドキドキしてる！
あまりの苦しさに翼宿から急いで離れた。一瞬力が込められたけれど、すんなり解放された。



「た、翼宿……あなたね」



言おうとした時、翼宿の大きな手のひらが目の前にズイッと出される。



「ちょい待ち。今は言わんでええで」
「え？」
「……なんとなく……今はフラれそうやし」
「はいっ！？」
「……ええなあ。お前に好かれる男は」
「た、翼宿クン？なに言って」



えーと、彼は何を1人で言っては納得しているのだろう。



「まあ、諦めたら終いやな」



諦めたら終い。
ああ……ほんとそうだわ。



今、急にストンと胸に落ちた。



「翼宿」
「ん？あ！オレはさっきの……謝らへんで！？」
「違うわ！ありがとう！！」
「………は？」



そうよ！諦めたらそこで終わりよ！！
まだ……まだ時間はある。



今から星宿に会って、伝えよう！
ひとまず星宿には何があってもこの宮殿から出ないようにしてもらおう！！



「じゃ、翼宿！また明日！」
「おう！……って、待たんかい！！」
「あうっ！」



通り抜けようとして扉に向かったとき、頭をガシッと掴まれた。
……あ、なんかこれ、懐かしい。



じゃなくって！！



「痛い痛い！！放して！！」
「……ぁ、わ……悪い……って、それのどこが痛そうな顔なんか！？嘘つくの下手すぎやで！」
「いいから、放してって！」
「放せるかい！！」



ジタバタともがく中、どうにか扉を開けることに成功する。



「なにぃ！？……本気で抜け出す気ィやな！？」
「少し星宿のところに行くだけだから！」
「皇帝陛下やぞ！？陛下の自室に簡単に入れるかい！」
「入れるわよ！もー！！」
「ﾁｯ……大人しゅう……しとけや！！」



廊下に出てなおも暴れていると、遂には翼宿に口を手で塞がれた。その手が大きくて、鼻と口を一気に塞がれる。



「んー！！んむー！！」
「ええから、はよ戻るで！！」
「んんー！！！」



放してー！と叫んだところで言葉にならず。
僅かな指の隙間から息をしては、部屋に連れ戻されそうになるのを何とか堪えていた。



それでも渾身の力を持って暴れていると、それは唐突に聞こえた。




「……何をしているのだ」



一瞬でピリッとした空気が訪れた。



「お、おう……井宿。柳宿もおるやん」
「はぁい、奏多。翼宿ィ？」



そ、その笑顔が……恐ろしいっ！
スッと翼宿の腕の力も抜けた。



「オ、オレはこいつを止めようとしとっただけやで！？」
「ふーん……奏多！早く服を整えなさい！襟元、肌蹴てるわ！」
「えっ？あっ……」
「止めるだけで君は奏多を羽交い締めにして、口も塞いで服も乱すのだ？」
「ご、誤解やで！！」
「あんた、奏多１人に何あたふたしてンのよ！ほら、早く部屋に戻んなさい！人が集まってきたらどうすんのよ。ったく、しょーがないわね」
「っ……柳宿！？」



言い終わるとすぐに柳宿が私を肩に担いだ。
今まで肩に担がれるのとは違って、座る姿勢のまま柳宿の肩に乗らされた。
あまりに急に訪れた高い視線に、掴むところのない私の手は、柳宿の頭に回すしかなかった。



「ぬ、柳宿……なんて猫っ毛なの……」
「……あんた今の状況、わかってる？あたしは翼宿みたいに甘くはないわよ」



表情こそ見えはしないが、翼宿が何も発しないところを見れば、ここはおとなしくしていた方が懸命かもしれない。



「……ハイ、すみませんでした……」



お辞儀は出来ないので、身をすくめて見せた。
柳宿のかわりに、さらっと一瞥した井宿が、盛大にため息を吐いた。



この２人、怒ると怖いタイプだわ。
そして私は……普段温厚な彼らを怒らせるタイプだ。