ふしぎロマンス18~定まらない感情~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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尾宿が連れていきたかったところはオアシスだった。前方に見え始めた時には全員が歓喜の声を上げた。
もう、干からびる寸前だったからだ。
「これ……本物?水なんて飲めるのかしら……」
柳宿が言うと尾宿がその水に口をつける。
自分の体を以て、この水が毒ではないと教えてくれているようだ。
「奏多、これは大丈夫だ。飲めるか?」
この時すでに体を起こすのも辛かった。ここに来るまでも尾宿の背に乗せてもらった。
僅かに首を振ると、軫宿は自分の手で水をすくい上げた。その大きな手のひらいっぱいに汲まれた水が、私の前に差し出される。
「飲むといい」
……こんなことをされる日が来るとは。かと言って、断る元気ももうなくて、そっと軫宿の指先に口をつけた。
「……ぁ、おいしい……」
「そうか」
軫宿がふわっと微笑む。本当に優しい目をする人。お返しとばかりに笑ってみせた。
「お前達も早く飲め」
「……たまに思うんやけど、オレたちには雑やな」
「当たり前だ。お前達はそう簡単に死なんからな」
「軫宿……私はもういいから、あなたも飲んで」
「そうか?」
そう言うと、そのまま残った水を飲み干す。
………お、おお。口からこぼれ落ちた水が首筋を伝う。
「なんだ?」
「え?あ、いえ……新しい水を飲んだらいいのに」
「勿体ないからな」
ふ、とその優しい目が細められて笑う。
「ほんと、軫宿ってしれーっといいとこ取りするわよねー」
「何の話だ」
「別に。あら?井宿、何やってんの?」
「美朱と鬼宿の“気”を探ってみてるのだ」
「……わかりそう?」
柳宿の後に、私は声をかけてみた。
「……まだなのだ」
私には……素っ気ない返事。こちらに向けられない顔。まただ。
また、井宿が目を見てくれなくなった。
嫌われている……。そうだ、忘れてた。
ふふ……と自嘲気味な笑みがでる。
「なあ、井宿が美朱たち見つけたらしいで」
「え……あ、ほんと?」
見れば井宿が袈裟を広げている。あそこに入って美朱の場所へと行くのだろう。
「奏多は最後にオイラと入るのだ」
今声をかけてくれたのは、前のこともあるし私がうまく降り立てないからだ。
本当は……。ああ、なんだか根暗なことを考えてしまう。
ゆっくり起き上がると、井宿の横を通り抜けて今まさに一番手で飛び込もうとしている翼宿の腕をつかむ。
「おっ!?……と、なんや……?」
「連れてって」
「せやけど、お前は井宿が……」
「え、と……」
さすがに無理があったかしら。でも……これで井宿にお世話になれるほど、神経は図太くない。
「翼宿が……いいなあ、なんて……」
「……………」
僅かな沈黙。おかしな事言ったかしら。
「……だ、誰でも同じやろうが!さっさと行くで!」
ガバッと体を横抱きにされる。その素早い速さに驚いて、首にぎゅっとしがみついた。
「…………堪忍してぇな……」
「え?なに?」
「お前な……」
「あ、ちょっと待って!」
「なんやねん!今度は……!」
「尾宿……!」
みんなの向こうで、佇む尾宿の名を呼んだ。
「尾宿、本当にこれが最後よ。もうあなたは自由に生きて。追いかけてきちゃダメ。ここまで……本当にありがとう」
そう言い残して、私は翼宿に「行って」とお願いした。
すぐに袈裟に飛び込まれるとあたりが暗くなる。
次に目を開けた時には……今、まさに氏宿(トモ)が角宿の流星錘(リュウセイスイ)によって、胸を貫かれている所だった。
「た、大変っ……!」
「おい!あいつまで助けようとしとんとちゃうやろな!?」
駆け出そうとする腕を引き寄せられる。すぐに柳宿、張宿、軫宿、井宿もその場に現れた。
「だって……!」
「あいつは敵やで!」
「ね、ねェ……あれって亢宿……?生きてたの……?」
柳宿が倒れ込んでいる亢宿に気づく。そして、私を見た。きっと、思い出しているんだろう。
「あたし……あんたになんてこと……っ」
「柳宿……」
「あたしっ……あの時、死んだと思って……あんたに酷いこと………」
柳宿が頭を押さえながら、足元をよろつかせる。
「柳宿……もう、いいから……!」
「でも……あたし……」
また柳宿を傷つけてしまった。
知らないはずの真実。いや、私がいなければ、そもそも亢宿が張宿に扮していたというのを知っていて黙っていた、というのもなかった。
私が言えもしないのに、先のことがわかるから……柳宿は傷ついた。
「ごめん……柳宿……ほんとに……」
「なんであんたが謝るのよ……あたしこそ、酷いことを……」
柳宿が、ポスッと頭を私の肩に乗せた。
人が傷つくのは、本当に……ツライ。