ふしぎロマンス17~惑わされないで~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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「おい……おい、柳宿!しっかりせい!軫宿もそれは薬草とちゃうで!」
ブンブンと肩を掴んで揺さぶる。それでも軫宿は翼宿を見ていない。
「なんで……なんでや……っ」
「翼宿、痛みを与えるの」
「なんやて……?」
「これは幻覚で術なの。痛みは現実に引き戻す力になる」
「痛み……ああ、さっきの砂はえらい痛かったなあ」
じろり、と睨まれる。
「あ、ははは……他に何もなくて……」
「殴ったらええやろ。って、お前の力なんぞ痛くも痒くもないか。おら、起きんかい。今のこいつ、腑抜けやねん。殴って起こしたるわ」
翼宿の声に怒気を感じた。一番、らしくない人がそうなっているからだ。
「……井宿。歯ァ食いしばっとれや!!」
「ッ……!」
う、わっ……痛そう。
翼宿の握った拳が井宿の左頬にめり込んだ。そのままバタンと後ろに倒れ込む。
「どや、井宿。戻ってきたか?」
「……痛いのだ……何をするのだ……っ」
起き上がって頬をさする井宿と目があった。
またしばし固まる井宿。……なに、そんなに変?
「奏多……」
「井宿、大丈……ぶっ!?」
気づいた時には、抱きしめられていた。
鼻、思いっきり井宿の鎖骨に打った……。
「はあ!?おい、井宿!まだ寝ぼけとんのか!?」
「……ち、井宿?」
「やっぱりいたのだ……っ。どこに行っていたのだ……大丈夫だったのだ?君の気がどこにもなかったのだ……」
それは耳元にかすかに聞こえて、包まれている体に伝わる僅かな震え。
井宿が震えてるの?
「わ、私なら大丈夫……」
体が離れたところでそう言った。
「体が……熱いのだ」
「そら、お前が変なことするからやろ」
「違う。奏多……具合が悪いのだ?」
言葉にされると、人は悲しいもので自覚してしまう。
……あ、ダメだ。気を張っていたのに、急に悪寒に襲われる。
「……少しね、寒い」
「寒いやて!?せや、さっきも言うとったなあ!」
「翼宿……なぜ聞いておいて気づかないのだ」
「わ、わからへんて~!」
「大丈夫!さっきまでは暑かったのも本当だし……でももう少し翼宿の服、貸して」
「そ、そら構わへんけど……ちょお、待っとれ。軫宿も一発で目ェ覚まさしてくるわ」
翼宿は腕を回しながら軫宿に近寄る。
その姿を井宿は目にしながら頬をさする。
「……それでオイラはさっき、翼宿に殴られたのだ?」
「せやで。オレなんか砂の塊、食ろうたんや」
「砂……君がしたのだ?」
井宿に見られ、気まずいながらも頷いた。井宿はため息を吐いた。
「まだ君には聞きたいことがある。翼宿、そこをどくのだ」
「ああ?」
「そんなことしなくても、もうオイラがいるのだ。翼宿は柳宿も殴るのだ?」
「…………いや、やめとくわ」
「それが賢明なのだ」
井宿は数珠に手をかけた。
「幻術にこうも簡単に引っかかるとは……」
未だ面がつけられていないからか、怒りの感情が現れている。
珍しい。面をつける余裕もないのだろうか。
「む……そこか!」
井宿が気を放つと砂に半分埋もれていた“貝”がパリンッ、と割れた。
その瞬間、柳宿たちがハッと瞬きをした。
「……え?なんなの、これ……」
「幻覚や!柳宿!」
「……って、奏多!あんたいつの間に来てたの!?」
「柳宿、まだオイラ達も事情を知らないのだ。軫宿、奏多が具合が良くないようなのだ」
「そうか。治そう」
そうは言うが、軫宿も足取りがふらついている。
この砂漠の炎天下にいるんだ。体力を持っていかれてるに違いない。
「………奏多。無事でよかった」
「軫宿……あなたこそ大丈夫?」
「ああ。……平気だ」
とても平気そうには見えない。
案の定、手をかざしても温かな光が現れなかった。
「……すまない。もう一度……」
「軫宿……。もういいよ。あなたも休まなきゃ」
「……なら、これを飲むといい」
懐から取り出された小さな瓶。
「おー!それがあったやないか!飲んだら効き目一発やで」
「だ、ダメ!!」
その瓶は聖水だ。これは……本当に大事な……。
「軫宿……それは本当に必要になるまで、大事にしてて」
「今も必要な時だと思うが」
「ううん。ただ、寒暖差に熱が出ただけ。皆も衰弱してる。お互い能力使ったらすぐにバテるわ」
みんなが顔を合わせる。
「……はぁ、確かに……ボロボロね、あたし達」
「そうだな。飲まず食わずで長く居すぎた。水を摂らなければ……」
「せやけどここ砂漠やで。水言うたかて……」
「張宿……は、まだ字が出ていないわね……」
困ったことになった。
機転の利く張宿はぼぅ~っとしている。じりじりと照りつける太陽が、容赦なく体力を消耗させた。