ふしぎロマンス17~惑わされないで~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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「っ……ちょっと!跡つけられたら困るんだけど!」
「煩い声だ。もう少しそそる声と言葉は言えないのか」
……言えるかあ!!
こうなったら思いっきり暴れてやる。
そう思ったのが伝わったのか、手が何かの力に寄って頭の上に持ち上げられる。
「……!?」
ダメだ、これダメだ。
どうしよう。誰か……誰か………いないのっ!?
「あ、あしたれー!!!」
「!」
「尾宿!尾宿ー!!来て!今すぐ来て!!」
声に反応して、天幕の外から尾宿が飛び込んでくる。でも、その体には鎖が今まで以上に巻き付かれていた。
「心宿……!あなた縛ってたの!?待ってるって言ってたのは嘘だったの!?」
鎖を引きちぎってまで入ってきた尾宿に心宿が手を差し出す。
「や、やめて!!尾宿、呼んでごめん!逃げて!!」
それでも尾宿は瞬時に心宿に威嚇したかと思うと、私を攫った。ものすごい速さと、ものすごい力で引き上げられる。
「あ、尾宿……」
「いいのか。お前が去れば、朱雀の巫女を汚すまでだ」
な、なんてことを……。
「……巫女は……簡単に汚されない。あなたは、触れることすらできないわよ」
でもそれでも美朱は傷つくのが目に見えている。
離れるべきではないとわかっている。ここで、待っているべきだ、と。
「グルルルル……」
迷っていると、尾宿が小さく唸った。そしてそのまま……天幕を飛び出した。
再びビュンビュンと走る。
尾宿の背にしがみつくのもコツを掴んできた。
でも……今はさっきよりも……。
「寒いっ!」
着の身着のまま……と言うか、いつの間にか羽織っていたものを脱がされている。
まさか、さっきの間で?
……手馴れているのが怖い!
「あ、尾宿……みんなの所に……あ、柳宿。柳宿がどこにいるかわかる?」
そう言うと、少しだけ方向が変わった。尾宿は、柳宿の匂いを覚えていた。
ああ、これで合流出来る。
早く……行かなきゃ。早く、会いたい。安心したい……。
美朱ちゃんは大丈夫だろうか。鬼宿はやっぱり、間に合わないのだろうか。
美朱ちゃんに会ったら、言わなきゃ。大丈夫だよって。
どれだけ進んだ頃だろうか。少し気候と景色が変わってきた。日も完全に落ちてしまった。
落ちなくていいのに。今は暑いくらいの砂漠に入りたかった。
長い道のりだった。
途中、尾宿の背から落ちそうになって、尾宿が心配そうに速度を緩めた。でも、これは逆に急いだ方がいいかもしれない。
だんだんと失われていく体力。そして、体に起こる寒気。
まずい……体調、壊した………。
「はあ………はあ………」
遠い。
ほんとこの世界の中の移動は長い。
もう乗り続けるのもつらい。
早く追いついて。そう心から願い始めた時だった。
尾宿が止まった。
「……ついた……?」
ズル……と落ちる。
砂の感触が肌に伝わってくる。暑いはずの砂もすっかり冷えてしまった。
前方に確かに5人の人影が見える。
何もないはずの砂漠の上で、そこにあたかも何かあるかのように振舞っている。
ああ……これ……あれだ。
幻覚に惑わされているんだ。
「尾宿……あなたはもう、行って。ここまで連れてきてくれてありがとう。もう、あなたは大丈夫よね?」
鼻を寄せる尾宿を撫でる。
「静かに狼として、生きて」
クゥン、と小さく一鳴きすると、尾宿は駆け出した。
尾宿。柳宿の因縁の相手。
でも私にとってはただの可哀想な人にすぎない。
野生狼として、生きていけるだろうか。でも、尾宿ならきっと大丈夫だ。
よろよろと立ち上がり、彼らのところへ近づく。
一体、彼らは何を見ているんだったか。
近づくと、それは聞こえてきた。
「あんた、よくこんな時に酒なんか飲めるわねェ!!」
「じゃかあしいわ!!飲まんとやってられるかい!」
「だからってねェ!もう夜が明けるわよ!!いくらなんでも遅すぎるわ!」
「しゃーないやろ!太一君があとで連れてくる、言うたんや。そんなら待っとればええんや」
「翼宿じゃ話にならないわ。井宿!……井宿……あんた……」
柳宿の声の先に座り込む井宿を、私も見た。
ぼうっとして、面まで外して無の状態の井宿。
これ……前にどこかでも……。
ああ、倶東国で薬で眠らされて、井宿たちと帰れなかった時。
夢の中で会った時の……井宿と同じなんだ。
「……また……目の前で……オイラは……また……」
小さく呟かれた言葉が、耳に届く。
「井宿……!」
声をかけたのに振り向かない。
柳宿と翼宿、そして少し離れたところにいる軫宿に張宿にも声をかけるのに……誰も私に気づかなかった。