ふしぎロマンス17~惑わされないで~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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「この天幕の中に誰かいないかな?」
隣を歩く尾宿に声をかける。返事はないにしろ、手にすり、と顔を寄せてくれば自然と顔は綻んだ。
天幕の布をめくり、中を見る。
「だれ?心宿?」
この、声は……
「唯ちゃん?」
「……あなた!」
イスに腰掛け、単語帳を手にした唯と目が合う。
「なんでここに……」
「ちょっと尾宿に連れてこられて、ね」
「尾宿?」
ピク、と反応を見せたから、そっと布をさらにめくり、横に鎮座して待っていた尾宿を見せる。
「そ、その狼が尾宿なの……!?」
「そうよ。とっても大人しくていい子よ。中に入っても?」
「ぁ……え、ええ……」
本当は入って欲しくない。そんな顔をされた。
視線も彷徨い、きっと心宿か角宿あたりを探しているのだろう。
「尾宿に何か食べさせたくて。きっと昨日から……いいえ、ずっとちゃんとしたものを食べていないと思うの」
「……ここには果物くらいしかないよ」
「充分だわ。くれる?」
唯が手渡してくれる。それをそっと尾宿の前に差し出せば、あっという間に食べ尽くした。
「尾宿……おなか空いてたのね。もう、人は食べちゃダメよ」
尾宿は顔を下に向けた。私と尾宿のやり取りを見ていた唯が驚きの声を出す。
「敵に……情けをかけるの……?」
「敵?確かに尾宿は大切な人を怪我させた。失うことにならなかったからだと思うけれど……敵とは思ってないわ」
「なん、で……」
「敵って誰なのかしら。あなたの敵は誰?」
「そんなの決まってるじゃない!」
「……美朱?」
「ッ……!」
唯の体が震え始める。この子も相当、傷ついているんだ。
「案外、敵だと思ってる人は敵じゃなかったりするものよ」
「なに……」
「護られてばかりではダメ。自分からきちんと真実と真意を見て」
「…………」
「美朱は闘ってる。自分の大切な友人と、愛する人を護るために……」
その瞬間、尾宿が一声鳴いた。ハッとした時には体ごと尾宿に突き飛ばされた。同時に今までいたところに、角宿の流星錘(リュウセイスイ)が飛んでいる。
「唯様から離れろ!!」
……これはまた、面倒なやつが出てきた。
「尾宿、ありがとう。怪我してない?」
突き飛ばした尾宿も流星錘に当たることなく無事だった。あれに当たっていたら、さすがに再起不能だ。
でも突き飛ばされた時に床に思いっきり打ち付けた肩が痛い。
「いきなり攻撃してくるなんて、唯に当たってたらどうするのかしら」
「オレが唯様に当てるわけないだろ」
「大した自信だこと」
さっと唯のそばに行き、すぐさま唯を背に庇いながら立つ角宿には、いい心がけだと褒めてやりたい。それだけを見れば、だけど。
この子もいい青年。
だけど今はさすがに気を許せる相手ではないようだ。
「なんでお前がいるんだよ」
「……あなた達は仲間内で話とかしないわけ?もう、全員に一々言わなきゃいけないの?」
「な、なんだよ!その口の聞き方!」
「それはこちらのセリフよ!私、あなたより倍近く生きてるんですけど!大先輩よ!!」
2人が一瞬、目をパチッとした。
ええ、ええ。いいですとも。驚きなさいな。
「え……オレの倍?……30……」
「28よ!!」
「うそ……」
「私も嘘だと思いたいわ。でも本当よ。いたわって頂戴」
「年なんて関係ねえ!唯様の邪魔をするやつは流星錘の餌食にしてやる!」
ほんと、若いって元気だ。そして不思議だ。
恐ろしい武器を持っているというのに、彼には恐怖心が芽生えない。
むしろ、言動一つ一つが思春期を迎えた男の子のようで、愛くるしい。
「なに笑ってんだよ!」
「いいえ。あなたを怒らせたいわけじゃないの。唯ちゃんと話をしていただけよ」
「嘘を……」
「本当だよ」
「唯様!」
「そこの狼、尾宿なんだって」
「え?………えっ!?」
………角宿も知らんかったんかい!
もうほんと、青龍七星士の仲間意識の低いこと。
「尾宿……なんでお前、そいつについてるんだよ。そいつはオレ達の敵なんだぞ!」
「グルルルルル……」
「角宿。尾宿は本能で誰が味方なのかがわかるみたいよ。さ、行こう……尾宿。邪魔したわね」
「っ……!そいつはお前の仲間である朱雀七星を殺そうとしたんだぞ!許せるのかよ!!」
角宿の心の叫びが聞こえる。きっと……自分のお兄さんのこと、亢宿のことを思い出してるんだ。
「……許せるわ。だって……死んでないもの」
「っ………!死んでたら……お前だってオレと同じように……」
「そうね。もし柳宿が死んでたら……透くんも井宿も助けられなくて、翼宿までひどい怪我だったら……恨んでたわ」
尾宿も見上げてくる。
「でも……誰も死んでない」
「なんっ……なんだよ……!兄キは……兄キは……っ」
死んでないのよ、角宿。亢宿だって……死んでない。
言ってあげようと思った。だけど……やっぱり頭が……っ!
「え……ちょ、ちょっと……大丈夫!?」
ああ、もう……ほんと厄介なんだから。