ふしぎロマンス17~惑わされないで~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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「落ちる!落ちる!落ちるー!!」
こんな事が現実に起こるのか。ビュンビュンと駆けていく。
この狼は……尾宿(アシタレ)だ。
どうして私を?思い当たる節があるかないかと言われたらある。透との関連性から連れてこいと言われていたりしたのだろうか。
尾宿は俊敏に走りきるとスタッと止まった。
「……つ、疲れた……」
慣れない動物の上にしがみついていると言うのはかなり疲労感があった。
フラフラと滑り落ちるように降りると私の上に影が差し掛かった。
それが人影だと気づいて顔を上げた。
「…………ほぅ」
「お前は……!」
「………うげ……」
目の前に心宿と房宿が立っていた。心底いやそうな声が出た。
「この大狼が……尾宿ですか……?」
「言ってなかったな。こやつの血筋は狼のものが混じっている。人間の部分が死ねば狼の本性が現れるのだ。これが神座宝か……よくやった」
心宿が尾宿の頭を撫でる。
「それにこの娘も連れてくるとは……随分と粋なことをしてくれる」
「っ……」
心宿の手が私の頬に伸びる。尾宿は自ら動いたのか。
「久しいな」
「……そうね。会いたくもなかったけど」
心宿とは、蠱毒で操られた鬼宿に“貢ぎ物”として連れていかれた以来だ。あの時のモノとしての扱い方は、今でも腹が立つ。
「……透くんはどこ?連れていったでしょう」
「透様は奥で休まれている」
「“透様”ね……まだ彼が欲しいの?」
「無論だ。透様も、神座宝も、お前もだ」
「…………」
「……だが……お前にはもう」
……まずい!尾宿が!!
「用はない」
「やめて!!」
何をするのかわかった。心宿が尾宿にむかって手をかざす。尾宿を殺す気だ。
私は思わずその獣の体をした尾宿に抱きついた。
「……何の真似だ。どけ」
「どかない!」
「お前も死にたいようだな」
「やれるもんならやったら!?私が欲しいんじゃないの!?」
「……ほう」
「尾宿はあなたにこんなにも忠実に従ってるのに、あんまりよ!」
心宿の目が鋭くなる。正直、とてつもなく怖い。
目なんて見たくない。でも逸らした瞬間、殺られる。そんな気がしてならない。
「お前のその目は……気に食わんな」
「………別に気に入ってもらおうとは思っ……」
ボソッと呟いた時だった。触れられてもいないのに、頬に走る痛み。
「ッ……!」
心宿は……気功の達人……。
やばい。本気で……怖い。
「……ふっ。いい目になったな」
人が怯えてると言うのにこの人は……喜んでいる。
信じられない。こんな人が……いるなんて。
心宿は満足そうに房宿を引き連れてその場を去った。
力の差を嫌というほど実感してしまう。私では到底太刀打ちできない人。
心宿だけでもこの威圧。これからみんなはこの人と戦うのだと改めて思えば、それはただの恐怖にしかならなかった。
すり、と尾宿が鼻先を擦り付けてきた。
左側の顔面がひどい火傷だ。
「……尾宿、言葉は話せるの?」
そろり、とその頭を撫でる。彼はまた鼻先を擦り付けるだけで、言葉を発することはなかった。
「人の言ってることはわかるのね。賢い子」
頭を両手で包み込んで、今もまだ傷の癒えていない顔に口づける。
「クゥン……」
「ふふ。可愛い声も出せるんじゃない」
再び顔を見れば傷は癒え、顔の毛も再生していた。
それでも完全に元に戻ったわけではなかった。左の目は完全には治らず、閉じてしまっていた。
「……井宿みたい。……また、心配させてるかしら」
突然連れ去られたも同然。彼らは今、探しまくっているだろうか。
連れ去ったのは尾宿の意思だった。
彼は……本能的に生きるために必要なものを心宿に差し出した。
もう見た目はわんこのよう。責めることなんてできないわ。
「大丈夫。行こう。何か食べるもの探そう?」
今朝までは尾宿のことが怖くて仕方がなかった。
それに本を読んでいた時は憎らしさもあった。でも今、私は彼の命を救った。
自分でもよくわからない。見た目が動物だから、可愛く思えたのだろうか。
私は、こんなにも忠誠心の強いこの狼を……放ってはおけなかった。