ふしぎロマンス17~惑わされないで~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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「いいだろう。持たせるといい」
「そんなの持ったところで変わりないと思うけどな」
斗宿と虚宿が言うのを耳にした直後、美朱に駆け寄った。
「奏多……さん……」
「大丈夫……?これ、持ってて」
「……柳宿、の……?」
「あなたは出来るわ。これはお守りよ。あとで柳宿に返してね」
美朱は苦しみの中で、うっすら笑ってくれた。
そ……とその場から離れる。すぐに目の前に壁ができた。
あとはそう。彼女の力を、美朱の成長を信じるだけ。
「………奏多」
ふいに鬼宿に声をかけられる。見上げると、その表情はとても固かった。
「さっきお前、言ったよな。“巫女の最後を教える”って」
「………ええ」
「巫女に……“最後”があるんだな……」
切ない声だった。鬼宿には巫女が死んだことが何より耐えがたいものだったのだろう。
「……玄武の巫女……多喜子は病気だったの。でも、玄武七星士の中に薬草の知識が豊富な少年はいたけれど、軫宿のような力を持つ人はいなかった」
「……病気………」
「大丈夫よ。美朱が病にかかったら、私が治す。軫宿だって治せるんだから」
鬼宿を見ると、少しだけの安堵の表情になっていた。不安なんだろう。
“本の中の人間”。
そう唯にも聞かされた後だから。
「う……ぁ……っ」
美朱のうめく声が聞こえる。
ああ、お願い。早く作動して。
いや、でも待って。
柳宿はここにいる。あの腕輪……篭手に変わるだろうか。
ピキ……ッ
完全に……氷が体を覆ってしまった。
「こ……凍ってもうた」
「美朱ーー!!」
誰もが焦り始める。私も……この状況を見守る。
だけども一向に変化が……見られない。
「……これならすぐに息が止まるな。結局ただの小娘か」
虚宿の呟いた言葉が耳に残る。
ただの小娘、ですって……?
目の前にあるであろう壁に思いっきり手をついた。バンッという音とともに、冷たくて手のひらに痛みを感じる。
「……虚宿!!」
名を呼ばれた虚宿がこちらを見る。その瞳を私は真っ正面から睨みつけた。
「いい加減にしなさいよっ!!」
「なに……」
「小娘ですって!?美朱は朱雀の巫女よ!多喜子と同じ、“巫女”なのよ!?」
「!」
「あんたは多喜子が力を示せと言われて、下着姿になって氷漬けになって……今と同じことを言われたら、どう思うのよ!」
「っ………」
「巫女を侮辱するのは、許さないわよ!」
一瞬、怯むのがわかった。その瞬間、美朱の体が赤く光り始める。
体を包み込んだ氷にも亀裂が生じてきた。
あっという間にパァーンッと氷が弾け飛ぶ。体の周りが赤く輝く姿に、私は惹き付けられた。
これが……朱雀の光。
目の前にあった氷壁もガラガラと崩れ落ちた。鬼宿がいち早く駆け寄る。私も遅れながらもそばに走り寄った。
「……井宿、今の奏多の目……見た?」
「………だ」
「一瞬、黄色くなってなかった?」
「黄金に近い色だったのだ……」
氷壁のあったところで井宿と柳宿が話していた。でも、このことは……離れていた私の耳には届いていなかった。
「では、約束を果たしてもらいましょうか。奏多」
美朱に服を着せていると、斗宿が声をかけてきた。
「それはもちろん。でも……あなたたちが先なのでは?」
巫女の力を示したら、神座宝を渡す。斗宿も察したのか、すぐに身を引いた。
「……そうですね。朱雀の巫女。あなたの力は見せていただきました」
「なんや?急に態度変えよってからに!」
「皆さんにも失礼なことをしました」
「じゃ……じゃあここを通してくれるの!?」
「はい。我々が神座宝の所まで案内いたします。……な?虚宿」
「……ああ。しょーがねーな……」
彼らは奥に歩いていった。その後ろをついていく。
大きな扉の前につくとここから先は美朱のみと言われて、私たちは扉の前で待つことになった。
「……あんた、大丈夫なの?」
「え……?何が?」
扉の前で座り込んで待っていると、目の前に柳宿が私の顔をのぞき込む。目と目がバッチリ合う。
「……今は戻ってるわね」
「え?」
「なんでもないわ。玄武の巫女のことを話すって言ってたけど、ホントに知ってるの?」
「……うん。知ってるというより、見たわ」
「見た?」
「昨日、ここに入った時にいきなり頭に流れ込んできたの。彼らの最後だった」
「………そう。玄武の巫女よりも先に死んじゃったの?」
その問いかけに、静かに頷いた。柳宿は眉を下げて哀しみに満ちた笑みを浮かべた。
「あたしも……そうなる所だったのね」
「……………」
私は立ち上がって、柳宿を抱きしめた。柳宿の体が震えている。
「させないよ。これからも、私が……させない」
「奏多……」
思うところは同じなのだろう。共感さえ出来るのだろう。それだけ、巫女よりも先に逝くと言うのは恐ろしいこと。
玄武と朱雀で違うものの、巫女を護る七星士に変わりはない。
誰もが皆、口を挟まず、柳宿と私を見守った。