ふしぎロマンス16~力を使う理由~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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「井宿、痛い?すぐに治すからね。我慢してね」
「……オイラは脚だけなのだ……だから……」
「脚に口付けたくらいじゃ治せないわ」
「……いや、そうではないのだ……。君からの治癒そのものを、やめておく……」
「何、言って……」
「おい、井宿!お前、そんな脚してんのに、なに強がってンだよ!」
「……強がってなど……」
確かに井宿の顔は面をつけているというのに、眉がきゅっと寄って辛そうだった。
それなら、素顔は?本当はとっても痛いんじゃないの?
「井宿……顔を見せて」
頬に手を添える。術でつけられている面は触れたくらいではどこからも剥がすことが出来ない。
「見ないで欲しいのだ」
ふい、と顔を横に逸らされる。
「……やっと、わかった……」
それは本当に僅かな囁き声だった。
聞き逃すのではないかと言うくらい小さくて、それでも私には聞こえてきた。
「オイラも……泣きたい気分だ……」
井宿が泣く!?
そ、そんなに痛いの!?
「井宿!今すぐ治させて!!」
「……君は……酷なことをする……」
「井宿……」
酷なことってなに?治すことが?仕方ないじゃない。治さなきゃ……口づけしなきゃこの深い傷は治せない。
あ…………。
そうか。そういうことか。
井宿は……私に触れられたくないんだ……。
「おい!!生きとんか!?」
大きな声とともにバタバタと翼宿が入ってきた。その後に軫宿も息を上げて入ってくる。
「遅くなった。すまん。脚をやられたのか。酷いな」
「軫宿、すまないが治して欲しいのだ」
「……ああ。わかった」
私の立っていた場所に、軫宿が代わりに立つ。井宿はじっと、軫宿からの力を受け入れていた。
なんて私はバカなんだろう。
井宿は人と関わるのが嫌な人だったのに、ズケズケと土足で踏み込んでしまった。
せっかく、仲良くなれたと思っていたのに……嫌われてしまった。
安易に……近づいてしまったから……。
「奏多。……柳宿の治療、頼めるか……?」
井宿に力を使った軫宿は少し青ざめていた。軫宿に頷いて、柳宿に歩み寄る。
「なぁに?あんたの方が、死にそうな顔してる……」
「柳宿……体に……触れていい?」
「え?」
「イヤ……だよね。気持ち悪いよね……ごめんね。ごめん、ね……」
でも、治したいの。また笑ってもらいたいから。
「それはこっちの台詞よ。好きでもない男に触れさせて、悪いと思ってるのよ」
「そんなことないっ!柳宿だもの!柳宿のこと……好きだもん」
「奏多……」
鼻の奥がツンとしてきて、それを隠すかのように怪我をした箇所に口付けていく。
腕、胸、お腹、背中……腰、太もも。柳宿の前に膝まづいて、体に触れ続けた。
「も、もうええやろ!!怪我なんぞ男の勲章や!!」
「あら、なんで止めるのよ」
「じゃかあしい!!見てるこっちが恥ずかしいわ!!」
「あーら、見なきゃいいじゃない」
「なっ!なんやてー!?」
「柳宿、平気?元気になった?」
「ええ。ありがと、奏多」
「ううん。いいの」
この便利な力があるのに使わないなんて意味がない。
綺麗な肌に戻った柳宿を見ると安心感と達成感に包まれた。
「よかった……みんな、良かったよお……!」
「美朱……怖かったよな。悪かった……お前から離れちまって」
「一体、何があったんや」
「あんた、よく今戻ってきたわね」
「オレと軫宿か?」
「照明弾が見えたから向かったんだ」
「照明弾……あたしが持ってたのはあいつに使っちゃったわよ」
「僕が持っているものを使いました。一度、みなさん集まった方がいいと思って」
「やるじゃねェか!張宿!」
何事も無かったかのような話し声。
あたりにはまだ血の汚れもあるというのに、彼らはいつもと変わらない。
変わらない……?いいえ。変わってしまった。
井宿が……様子が変だ。目を合わせてくれない。
「奏多」
名前を呼ばれて振り向くと、透が立っていた。
よかった。もう、顔色も悪くない。
「……今にも倒れそうだ」
「私はどこも怪我してないわ。少し……走りすぎたけれど」
「怪我……してるよ。傷ついてる。心が……」
「え?」
ちょうど近くで翼宿たちの声がしてかき消された。
聞き返しても透は口を閉ざし、優しく微笑んでいるだけだった。