ふしぎロマンス16~力を使う理由~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「鬼宿さん!美朱さん達は……!」
「美朱?美朱なら柳宿や透と一緒……に……」
鬼宿の顔色が変わった。その目線の先におびただしい程の血痕がポタポタ続いているのが目に入ったからだ。
「なんだこれ……ッ……美朱!!」
「鬼宿さん!こっちです!でも、奏多さんが……!」
張宿に言われて駆け出した足を止める。踵を返して私の前へ走ってきた。
「来い!奏多!!」
「鬼宿……」
「泣いてるヒマはねェ!来い!!」
腕をものすごい力で引っ張られる。自ずと足が動きながら私は気づいた。
鬼宿の手……震えてる……。
怖いのは鬼宿も同じなんだ。誰の血なのかわからなくて、怖いんだ。
「鬼宿……張宿、ごめん。行こう」
2人がほっと、笑った。
「ここの中に続いてる……」
血をたどって行くと、一軒の宿屋についた。
「すみません。ここに怪我人が運び込まれませんでしたか?」
張宿が店主に聞いた。
「あ、ああ……あんなもん、子供が見るもんじゃ……」
「おじさん、大丈夫です。私、医者です。この子たちは弟です」
「医者……じゃ、じゃあこっちだ!」
咄嗟の嘘でも店主は信じた。それだけ今この人は医者を求めていたのだろうか。
案内された部屋に入る。入った瞬間……異様なまでの血の匂いに胸が苦しくなった。
「美朱……!!」
「たま……ほめ……」
鬼宿の声にピクッと反応して美朱が顔を上げた。その顔は涙でグシャグシャで、体中が血で汚れていた。
そして……部屋の中に横になっているのが2人。
「と、おる君………?ち……ちり……」
ああ……やっぱり天罰が下ったんだ。どちらも体中、血がついている。透は肩から胸にかけて、井宿は左足。
何かに深く引っかかれたように皮膚がえぐられている。
頭がクラクラした。
「奏多……来て、くれたのね……」
部屋の奥で柳宿の声が聞こえた。バッとそちらを向けば、肩膝を立て体を丸くしている柳宿が見えた。
その柳宿の体にも、引っかかれたような傷が見えた。
「おい!柳宿、何があった!!」
「話は、あとよ……早く透と……井宿を……」
「奏多さん、出来ますか!?」
張宿に言われて大きく頷く。すぐに2人に駆け寄った。
透の顔色が悪い。血を流しすぎているんだ。
意識もなく、ぐったりと目を閉じた姿は胸を締め付けた。
「透くん……」
その唇に自分の唇を重ねた。まさか、自分からする日が来るなんて……。
それも、意識のない彼に。
でもこれで治せるのなら、私はさせてもらう。
治って、と祈りながら。
だけど。
思ったよりも回復しない。
「な、なんで……も、もう一度……っ」
また口付けた。
治って……傷口、塞がってよ!!
気ばかりが焦った。
「ッ……どうして治らないのっ!?」
頬に添えた手が震える。早く、治したいのに。
あなたの笑った顔がみたい。声が聞きたい。
それなのに……まだ目を覆いたくなるほどの傷口がそこにある。
「ど、うしてっ……!」
私がこのまま治せなかったらどうなるの?
透くんは……死んでしまうの……?
「い、いやっ……いやよっ!」
「奏多!落ち着けって……!」
「いやよ……いやっ……」
ガタガタと震え始める。
失いたくないと思うばかりで、少しも力を与えてあげられなかった。
「……奏多……」
「ッ……!井宿……?」
その声が聞こえてくると思わなかった。
井宿の方を見れば横になったまま、うっすらと目を開けている。
「奏多……大丈夫なのだ……君なら……必ず、出来る……のだ……」
弱々しい声。それでも、私の心を落ち着かせる呪文のようだった。
「できる……信じるのだ……」
「井宿……」
涙を脱ぐって再び口づけをした。
口をこじ開け、深く口づける。前に井宿から“気”をもらった時のように、口をすべて覆い尽くすほどに重ねた。
「………ん………奏多……?」
唇を離すと、透が目をスゥ、と開けていた。
「透くん……透くんっ……!!」
「……奏多……ごめん、ね……」
思わず抱きついた私を、透はそっと片腕を持ち上げて抱きしめ返してくれた。
「治してくれたんだね……ありがとう」
「ううん。よかった……」
治せたのは井宿のおかげだ。
透のことは鬼宿と張宿に任せて井宿の元へ向きを変えた。
次は、井宿。あなたを治すわ。