ふしぎロマンス16~力を使う理由~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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外はまた雪が新しく積もっていた。
井宿が通ったであろう足跡のような形がうっすら残っている。
私たちは懸命に走った。
どれだけ遠い道のりでも、雪に足元を取られても、体中が雪まみれで濡れてしまっても、手と手を取り合って走った。
「はぁっ、はぁっ、」
「奏多さん!あそこ!見てください!乗ってきた馬があります!」
「ほ、ほんとだっ……」
「井宿さんならそのまま走った方が早いはずです。足跡もほら、市街の方へ続いてます」
「うん。でも、馬に乗れないわ」
「大丈夫です。僕は馬の動かし方は元々知ってるんです。軫宿さんの手捌きも見てました」
「ほんとに!?すごいわ!」
張宿がすぐに馬のそばに四つん這いになる。
「張宿!?」
「僕の背を使って馬に上がってください」
「え、でも……」
「大丈夫です!急ぎましょう!」
うぅ……小さな子の背中に乗るなんて……。でも雪の上に置かれた手が、赤くなっているのを見たら……。
早くしなきゃ。
「ごめんね」
「平気です!」
私が馬に跨ると、張宿は必死にもがいてよじ登ってきた。少しでも楽になるなら、と張宿の服をつかんで上がるのを手伝う。
「あ、ありがとうございます」
「ううん。私こそ」
私の前に張宿は跨ることが出来た。
「手綱は僕が持ちます。奏多さん、僕にしがみついていて下さいね」
「うん、わかったわ」
張宿の体に腕を回す。翼宿や井宿とは全く違うその腰の細さに、張宿がまだ幼い子供なのだと再認識させられた。
こんなにも幼い。それでも、一人で考え、一人で動き、そして一人の男として護ろうとしている。
「張宿、かっこいいよ」
「えっ?……えへへ。僕も七星士ですから」
この子も将来が楽しみな子だ。失うべきじゃない。この子にも……生きていて欲しい。
それにはまず……柳宿に生きていてもらわないと。
「奏多さん!あれを……み、見てください!」
一際切羽詰った声を出す張宿に促され、言われた方に目を向けた。
「な、何あれ……!」
それは市街中心部。人だかりが出来ていた。
人が集まるその足元に、まだそんな近づいてもいないのにここからでもわかるその血の跡が見えた。
「あ、あの……この血は……」
近づいて聞いてみたが、声が震えた。怖い。
聞くのが……怖い。
馬から降りると、張宿は近くの木に手綱を括りつけていた。私は人だかりの中の一人の女性から話を聞くことが出来た。
「ああ、これかい?さっき化け物が現れたんだよ。ホントおっかないやつでねえ。爺さんが喰われちまったんだ」
「お、おじいさん……」
いけない。今、ホッとしてしまった。
柳宿じゃない。美朱じゃない、井宿でもない。でも確実に一人、犠牲になってしまったというのに安心してしまった。
だからきっと……。天罰が下ったんだ。
「でもあの若い子達、大丈夫かねえ。あんなすごい子達でさえもやられちまうなんて……おっかないねぇ」
……いま、なん……て………。
「奏多さん、顔が真っ青です。大丈夫ですか?」
「あ……あの……“あの子達”って……」
「ああ、爺さんがやられちまったあと、化け物に挑んだ若い子達がいたんだよ。その子等も怪我してたねえ……」
「け、怪我!?あの、どこに行ったかわかりますか!?」
「それならあっちの方に……ほら、血が続いてるだろ」
顔をそちらに向ける。
「うそ……」
そこには点々と、と言うレベルでは言い表せないほど、ドッと落ちたと思われる血がランダムに続いている。
これは……誰の血?誰が……怪我をしているの!?
「い、いきましょう……奏多……さん」
「張宿……ち、りこ……っ」
「行かないと……いきましょう!奏多さん……!」
張宿も震えている。この血の量に心底震えている。
「こわい……怖いっ!」
「それでも、行かなくては……!軫宿さんがいなかったら、奏多さんしか治せません!」
「っ!」
い、いかなきゃ……治さなきゃっ……!
でも、この血の量がっ……!
私の心に絶望を与えていく。
「わかりました。僕が先に見てきます!奏多さんはそこに……あッ!」
「ぉわっ!」
張宿が走り出した時、横からぬっと飛び出てくる人がいた。ドンッとぶつかると、張宿は尻餅をついた。
「痛ってぇ……悪いな、怪我なかったか?」
「た、鬼宿さん!!!」
「ん?なんだ、張宿じゃねェか」
張宿にぶつかったのは鬼宿だった。
鬼宿は張宿を支えながら次に視線が私に来た。震えて、佇むしか出来ていなかった私に。
「奏多……なんで泣いてンだ……?」
ああ……やっぱりこの時、鬼宿は美朱達とは一緒じゃなかったのか……。