ふしぎロマンス15~護れるのなら~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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「井宿、張宿……私、行きたいところがあるの」
「行きたいところ、ですか?」
「それはどこなのだ?」
「それは……」
お願い。話させて。
「黒山(コクザン)。黒黎神山(コクレイシンサン)よ」
言えた……。
「ここからは歩かないと行けそうにないのだ」
「もちろん大丈夫です。奏多さんは……」
「私も大丈夫。行かなきゃいけないもの」
雪山の麓に馬を置いて、足を取られながらも登った。近づくにつれて、心臓がドクドク鳴り響く。
こんなところだったのか、と実際に歩いて白い息を吐き出す。こんなに冷えて、こんな雪が積もっていて……。ここで……こんなところで。
「奏多。震えてるのだ」
「大丈夫……寒いわけじゃないの」
「何を、そんなに思いつめてるのだ……」
「急ごう。透くんたちも心配だわ」
柳宿……いえ、美朱と一緒にいれば尾宿が狙ってくることは確実。私が知るのは柳宿が庇って肩を怪我すること。
それはこれから起こることなの……?起こればそばにいる透が動くのだろうか。
どちらにしてもいやだ。
誰も足を踏み入れていないのがわかるくらい、真っ白な銀世界が続いた。目の前に、大きな岩壁が見え始める。そして……それはあった。
「なんて大きいの……」
大きな岩。その奥にしっかりと閉ざされた扉がひっそりと待ち構えていた。
「大きいですね」
「退かさないと入れなさそうなのだ」
「照明弾で柳宿さんたちに来てもらいますか?」
その言葉を受けて井宿が照明弾を取り出した。
「ダメ!!」
その持つ手に掴みかかり、すぐに服の中に仕舞い込む。
「何をするのだ」
「呼ばなくていい。私が……やってみるわ」
「奏多さんが?」
「無茶言うのだ。どうやって……」
こうなることはわかっていた。大きな岩があることも。そっとその岩に手を添える。
透くんの力があれば、すぐなんだろうな……。
破壊。それがあれば岩くらい壊せるのに。
でも、私にはそんな力はない。まさかここで人選ミスだったのだろうか。
いや、私は大地を操れる。
岩のすぐ下の地面に両手をつく。ふぅっ!と力を込めると一部分が盛り上がった。
「すごい……!あのまま地面が盛り上がれば岩が横に転がるかも知れませんっ」
「岩の大きさがでかすぎるのだ!いくらなんでも……」
これを動かすのは、てこの原理だと思った。張宿もそれがわかったのだろう。どこからか太い枝を持ってきて、私の側に立つ。
「お手伝いします!」
「張宿……」
こんな小さな子ですら、力を出している。もう一度、力を手に込める。
徐々に盛り上がるものの、岩の重さは異常だ。すぐに盛り上がったところから強度に負け、モロモロと崩れ始める。
「奏多、張宿。離れるのだ。オイラがやってみるのだ」
「井宿」
「“気”を放つ。砕け飛ぶかもしれないから、オイラの後に下がっているのだ」
言われた通りに張宿と下がる。
「むんッ!!」
数珠に手をかけ、印を結ぶ。気合を入れればすぐにパァン!と岩が弾けとんだ。
それでもまだ、表面だけだった。何度か試みるも……岩は大きすぎた。
こんな大きくて、井宿でも苦難を強いられているものを、あの柳宿は持ち上げたのか。
あの傷を負って。考えれば考えるほど震えが止まらない。なんとしても今、これをどうにかしていたい。
「くっ…………」
井宿がふらついている。ものすごく力を使わせてしまったのだとわかった。
「井宿……大丈夫……?」
「……オイラの“気”ではこれが精一杯なのだ」
「“気”……。井宿の“気”さえ戻れば、また出来る?力を回復させられたら……」
「……………」
目と目が、合った。私が言いたいことをわかっている。そんな顔。
「……君はもう、オイラとはしないとばかり……」
「あなたしかいないの」
「…………」
「ここを突破するには……井宿しか、いない」
「………あぁ、そうなのだ。……そう………」
「井宿?」
一瞬、寂しそうな顔になったのは気のせいだろうか。よく見ようと顔を覗き込めば、すぐに逸らされた。
「もう一度やってみるのだ」
「井宿さん!?そんな体でやっては、あなたが倒れてしまいます!」
「井宿……お願い。お願いだから……私と……」
あなただけが頼りなの。この岩さえなければ……こんなのを持ち上げさえしなければ……っ。
「お願い……井宿………っ」
「……ッ……!」
ぐい、と肩を引き寄せられた。この間みたいにゆっくりすると思っていた。
こんなにも力強く、こんなにも勢いよく引き寄せられたことに驚いた。
「ちち…………んむっ……」
顔に手が添えられたかと思うと、井宿の唇が半ば強引に、私の唇と重なった。