ふしぎロマンス15~護れるのなら~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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「奏多、前に乗れや」
「え、どうしたの?急に」
「急やあらへん。お前、しれっとオレのことも治してたんとちゃうか。全然疲れへん」
「え?」
「もう使わせんし、さっきのでしがみついとるんは無理や」
「前に乗って走れる?」
「当たり前や!」
翼宿が先に跨り、手を差し出す。掴もうと手を伸ばすと、後ろから腰に触られる感覚。
「手伝うのだ」
「きゃっ」
……うわ、思わず甲高い声出しちゃった。後ろを見れば眉をきゅっ、と寄せた井宿の顔。
「そこまで驚かれると思ってなかったのだ」
「あ、ち、井宿……ごめん」
「……おら、早うせい!引き上げるなんてオレ一人で出来るっちゅーねん」
翼宿が手を掴んでくると、ぐいっと上に引き上げる。腰も……やっぱり触れられて同時に馬に跨りやすくしてくれる。
「ありがと、2人とも」
目線が高くなったけれど、下を見れなかった。井宿の顔が見れない。私は……知らなかったとはいえ、井宿になんてことをしていたのだろう。
そうよ。知らなかったんだもの。
夢でうなされて、井宿が落ち着かせてくれていたなんて。
「行くでー」
うん、そうよ。朝起きたらいつも普通だったもの。
起こされる時もあったけれど、いつだって私は一人で起きてたわ。
「………おい」
一人で起きていたのは先に離れていたから?柳宿には最後まで抱きついていたみたいだけど、井宿なら……落ち着いたら抜け出すことだって……。
「……可能だわ……」
「おい!ボケっとしとらんと、ちゃんと前、見んかい!」
「わっ!あ、ごめん……」
「上の空やな」
「ご、ごめん……」
「なら余計なこと考えんと、しっかり前見とき。走るで!」
ぐ、と腰に回された腕に力が入って体が密着する。馬がすんなりと走り出した。
馬の扱いが……上達してる……。
馬も乗り手も万全なコンディションだからかもしれない。でも、それでもやっぱり前に乗せてくれた時よりずっと乗りやすくなっていた。
これならすぐに前を行くみんなに追いつくだろう。
体格差から頭の後ろに翼宿の口元がある。しばらく走ると、段々と翼宿の息遣いが変わってきた。
「………ハッ……ハッ」
微かな息だ。だけど、この息が妙にくすぐったい。
「……はッ!」
一声かけると同時に、馬の腹を蹴ったのだろう。勢いが増す。それとともに支える腕にも力が込められた。
「ハッ……ハッ……」
……なんとも生々しい……。
耳!耳元から少し離れてくれないかな……!
身を縮こませて大人しくしていると、ふいに背中にかかる圧。
「……なんや、どないした?具合悪なったんか」
「い、いえ……」
い、息が耳にかかる!それだけ近いんだ……!!
我慢。我慢しようっ!
「……なあ」
「え、なに?」
「ホンマに……どんな夢、見よるんや」
ボソッと呟やかれる言葉。それがまた、声が耳に直接届くかのようで身を強ばらせた。
「なんで……名前呼んだんが、柳宿やったんや……」
どうしてそんな、切なそうな声を出してるの?
なんで……。
「翼宿……あの……!」
バッと振り返ると馬の動きと私たちの反動で、私のおでこに柔らかなものが落ちてきた。
ちゅっ
ん?
「!!!」
「え?」
「どぉわあ!!」
あ。
翼宿が、そのまま後ろに……落ちた。
落ちちゃったわ!!!
「みんな!翼宿が落ちたわ!」
慌てて叫ぶと、みんなが振り返った。
「はぁ!?なんであいつ落ちてンだ!?」
「奏多!大丈夫なの!?」
「大丈夫じゃないー!!!」
その言葉のとおり、私は馬のたてがみにしがみついていた。
あっという間に立ち止まったみんなの馬を追い抜く。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」
「待てないぃ!!」
「手綱!手綱を持つのだ!!」
「持てないぃ!!と、止まってー!!」
これはやばい!ど、どうしたらいいんだ!
馬の速さがいきなり早く感じる。翼宿がいたときはこんなこと思ったことなかったのに。
支えてもらえるというのは、こんなにも……安心できることなんだ。
「奏多!!」
後ろから鬼宿と柳宿、井宿が追いかけてきていた。
「井宿!あんたの術で馬を止められないの!?」
「動きを急に止めたら振り落とされるのだっ」
「あーもう!早く追いつけばいいんだろ!」
も、誰でもいいから止めて……。腕が……もたない。
ズル、と体が傾いた。
「「「奏多!!!」」」
確実に馬から体が離れた。すぐに地面に叩きつけられるんだ、と固く目を閉じた。