ふしぎロマンス15~護れるのなら~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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「それにしたって随分、岩が多いわねェ……」
柳宿の呟きに激しく同感だ。女誠国から逃げ出すことが出来たものの何も手に持って出られず、身一つで今、岩肌を登っている。
これでもかと言うくらい、人を酷使する道なりだ。
「はあっ……きっつ……」
「おい、大丈夫かいな。ホンマどん臭いやっちゃなぁ」
「こんなとこ、サクサク登れるわけ、ないからっ……ちょっと、元気なら……手伝ってくれない……っ?」
「しゃーないなぁ……」
こういう時、翼宿は何だかんだ言っても手を差し伸べてくれる。
伸ばした手をしっかり握り返してくれた。一言多くなければもっといいのに。
「寒くなってきましたね」
「さすが北の国と言われるだけあるのだ」
「濡れた体には堪えるな。どこかに入れるといいのだが」
張宿と井宿、軫宿が後ろからついてくる。
そうだ。こんな小さな子も頑張っているのだから、弱音なんて吐いていられない。
上まで登りきったとき、目の前には広大な草原が目に入った。想像していた以上の広さだ。
「寒いわねェ。ちょっと翼宿、鉄扇で火たいてよ!」
「アホッ!んなしょーもないことに……」
「奏多が寒がってンのよ!手も握ってんのにわかんないわけェ!?」
「翼宿の手あったかいから大丈……」
「それならそーと早う言わんかい……」
ボソッと呟くと、翼宿は離れたところに手早く木々を集め、鉄扇から加減された火を出現させた。
「はぁ、あったかーい。奏多も美朱もあたりなさい。風邪ひいちゃうわよ」
「柳宿……翼宿もありがと」
「ったく、ちゃんと乾かしいや」
翼宿の火は本当に暖かかった。そっと手をかざすだけで、不思議と心が落ち着く。
「あっ……!」
美朱が声を上げた。目を向けると、そこには暴走する馬にしがみつく子供がいた。
「やっべぇ!振り落とされるぞ!」
鬼宿が言うと同時に駆け出す。すぐに子供を救い出すと、その子供を集落まで連れていくことにした。
「あんな子供でもしがみついてたって言うのに……」
「柳宿の言葉……今のは悪意感じるわ」
「やーね。呆れてただけよ」
「ひどっ……」
「ほんとに……これから先、大丈夫か心配になるときあるのよね。でも、守ってあげることなんていくらでも出来ちゃうけど」
柳宿……ちがうよ。守るのは、私。
私が、守るの。
ずっと……ここに来るまでにずっと頭の中にあった。考えないようにしても、不安が押し寄せる。
ここはもう、北甲国だ。ここでの記憶が……本当に少ない。
あまり……読んでなかったから……。
それは学生の頃。思ってもいなかった衝撃的展開で、一度は読んだものの二度と開くことがなかった。
どうしてか?そんなのわかりきってる。
柳宿の最期が載っているからだ。
「もう暗くなってきたのに、君は外で何をしてるのだ」
その声は突然後ろから聞こえてきた。
「井宿……」
先ほど無事に子供を送り届け、その子のお宅に一晩泊めてもらうことになった。美朱は今、神座宝について話を聞いているだろう。
「この国についてからというもの、奏多はずっと考え事をしてるのだ」
「え……?」
「何を考え込んでいたのだ」
「別にそんなこと……」
いや、待って。ものは考えよう。
これから井宿に話して、柳宿から離れないでもらえれば……。そこに軫宿もいてもらえたら……。
無事かもしれない。
「井宿、ぬ……痛……ッ!!!」
「!!」
ガンッ!!と頭に痛みが走った。膝から崩れ落ちる。
今のは……“柳宿”って言おうとしただけで、この激痛……?痛くて、もどかしくて泣けてくる。
「奏多、もしかして何か……」
井宿が様子を伺ってくる。
そう、そうなの。でも……ズキズキして、耐えることしか出来ない。こんな、言葉を発することも出来なくなるなんて……っ。
「何しとんねん、お前ら」
家から出てきた翼宿と目が合う。何かに気づいた翼宿はすぐに井宿に目を向けると、ズカズカ近寄ってきた。
「おい!こいつ泣かせたんのはお前かっ!」
腕が伸ばされたかと思うと、一瞬で井宿の胸倉をつかみあげる。掴まれた瞬間、井宿は翼宿の腕を掴んだ。
「君はもう少し考えた方がいいのだ」
「何やて……?」
掴みあげていた翼宿の手に力が込められる。拳が首に入ったようで、井宿の顔が歪められた。
……いや、いやいやいや。待ってよ!
「翼宿!?何!?」
「何てお前、こいつに泣かされてたんとちゃうんか?」
「違うわ。そんなわけないでしょ」
「…………」
「誤解はとけたのだ?」
「ホンマかいな……そらすまんかったな」
おず……と翼宿が手を放す。井宿は伸びた襟元を手で直すと、顔がこちらに向いた。
「もう痛くないのだ?」
「あ、うん……大丈夫みたい」
「なんや?また先のこと話そうしたんか。もう話さんでええて!」
「でも……でもねっ」
口を開こうとしたら翼宿がその手を口に押し付けてきた。
「もう、話すなや。ええな?」
間近に迫った顔があまりにも真剣で、そのまま口を閉ざした。