ふしぎロマンス13~痛む心~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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「今日はここに泊まらせてもらいましょうか」
「もちろんだ。ちょっと狭ェけどよ。って、春敬、やたらと懐いてンな」
「笑って見とらんと、お前の弟どうにかせぇ!!」
「いいじゃねェか、減るもんじゃねェし」
夜も更けた頃、鬼宿の家の片付けがようやく終わった。
まだ至るところに血の跡があるものの、明日、みんなで都・栄陽に向かうことになった。
今夜だけ、みんなで雑魚寝だ。
と言っても、寝たきりを強いられている私は1人布団を使うように言われ、美朱を無理やり引きずり込んだ。
1人で使うなんて居た堪れない。
「明日、動ける?奏多さん」
「平気だよ。明日になったら、軫宿……力戻るかな?」
布団から顔を出し、軫宿を見る。
「ああ。大丈夫だろう」
「よかった。ほんと、軫宿がいてくれて助かるわ」
「俺だけでは鬼宿の親父さんやこの子達は救えなかった」
軫宿が言うと、誰もが言葉を呑んだ。鬼宿が玉蘭の髪を梳く。
その光景が見れているだけで、私は幸せだ。
「もう早く寝なさーい。明日から船の上なんだから」
その言葉に翼宿だけ固まるのが見えた。
翌日、馬に荷物を積み上げる。鬼宿の一家がお引越しをするのだ。
「軫宿。まだ力、戻らへんのかいな」
「ああ……文字が浮かび上がらん」
「大丈夫だよ。ちょっと胸が痛いけど、動けるし。治り早いみたい」
「大丈夫なわけあらへんやろ」
「出発前に薬を塗るか?」
軫宿は自分の荷物から薬を取り出した。ここに来るとなって、きちんと万全を期して来てくれたのだろう。
「軫宿!塗るて……お前!どこ怪我しとるかわかってんのか!」
「…………」
「翼宿……軫宿はお医者さんよ?」
「医者でも男や!」
食ってかかる翼宿に、軫宿が珍しく眉をピクリとさせた。
「だったら目隠しでもするか?俺は構わんが見えない分、触るぞ」
「な、なんっ……」
おー。軫宿が言い返した。
拍車がかかり今も騒いでいる翼宿を無視して、軫宿は私の背中を押して中に入った。
「と、言っても私は怖くて患部見ないようにしてるから……結局、軫宿には触られてるよね」
「……頼むから翼宿には言わないでくれ。色々と面倒だ」
ため息をつきながら、傷口に薬を塗り込む。
「すまないな。すぐに治せなくて」
「全然。昨日、軫宿だって使いすぎてフラフラだったのに傷口を塞いでくれた。それだけでありがたいよ」
「そうか。サラシを巻こう。腕を広げてくれ」
「はーい」
ここで恥じらいの一つも見せないあたりが……私は女として終わってるのだろうか。
軫宿も後ろから巻いてくれてるんだけども。
「移動で馬に乗るだろう。気分が悪くなったら知らせるんだぞ」
「うん。あ、落馬したの柳宿には、ない……」
内緒ね、と口に出した瞬間に、家の外で柳宿の雄叫び。
『はぁ!?奏多を落馬させたですってー!?』
「…………」
「遅かったな」
「あ、ははは……また怒られるわね……」
服を着て外に出ると、柳宿が腕を組み仁王立ちで立っていた。その傍らには倒れ込みながらピクピクとさせている翼宿の姿がある。
「えーと……何事?」
「話は聞いたわ。あんたが乗ってるのにめちゃくちゃ速く走ったんですって?」
あ、それでか。
翼宿……憐れ……。
「私も捕まってなかったから……」
「それでね、考えてみたのよ」
あれ、私のフォロー……軽くスルーされた?
柳宿は一人一人、馬のところに人を動かす。
「子供たちもいるし、ここは1人ずつ馬に乗せることにしたの。鬼宿は結蓮。軫宿は玉蘭。翼宿は忠栄。あたしは美朱。鬼宿のお父さんが馬に乗れるみたいだから、井宿が乗ってきた馬に春敬と乗ってもらうわ」
「うんうん。いいと思う。あれ?でも井宿は?」
「オイラは術で帰れるのだ」
「わお。その手があったわね」
「そ。ちなみにあんたも井宿と帰るのよ」
「え?」
「トーゼンでしょ!あんた、怪我してるんだから!馬に乗るよりいいわよ。一瞬なんだから」
「それは……確かに」
「さっ、それじゃ出発するわよ!」
柳宿がサクサクと先導する。
馬に全員がまたがると、先頭を行く鬼宿に声をかけた。
「気をつけてね。まだ角宿が狙ってるかも……」
「安心しろよ。絶対、無事に都に戻ってやっから」
「うん……」
「お前が守ってくれた命、今度はオレが守るからよ。お前は先に行って休んでろよ」
鬼宿が軽くウィンクする。
そうよね。もう鬼宿もいるんだもの。翼宿に柳宿、軫宿もいるんだもの。
大丈夫よ。
「さっ、オイラ達も行くのだ」
「…………」
「奏多?」
無言のまま出発した鬼宿たちを見つめていた。井宿は軽く息を吐くと私も前に割って入ってきた。
「奏多、よく聞くのだ」
「えっ……あ、ごめん。なに?」
「君はよくやったのだ。これからオイラは君を連れて帰るのだが……」
「うん……お世話になります」
「距離がまぁまぁある。だから……君にも集中してほしい」
「え?」
疑問に思う間もなく、井宿は私の腰を引き寄せた。
「しっかり掴まっておくのだ!」
井宿はふわっと袈裟を広げると、私を抱き込んだまま、中に飛び込んだ。