ふしぎロマンス13~痛む心~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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宮殿を出てみたはいいものの、途方もなかった。
歩いても歩いてもまだこの町並みでは都に近いところだろう。
1人とは、こんなにも寂しいものなのだろうか。
私にも透くんみたいに移動できる手段があればいいのに……。
思い出すのは身を包み込んで運んでくれた風。風はいい。吹いてどこにでも行けるのだから。
でも私は地。さすがにこのあたりの大地をボコボコ浮き上がらせるわけにはいかない。
「……急がなきゃ」
私は歩みを早めた。
町並みを抜け、あたりに木々が多くなってきた頃、後ろから僅かに馬の蹄(ヒヅメ)の音が聞こえた。
思わず太い木に身を隠す。変な人に絡まれては厄介だ。
通り過ぎた馬に乗る人を盗み見た。
「井宿っ……!?」
あ、やばい。
口を塞いだ時には馬たちが勢いよく止まる。
あぁ……やばいやばい。
見つかる!見つかったら、絶対に怒られるパターンだ!まずい。隠れなくては。
コソッと後ろに下がって引き返そうとしたところに、ドンッと当たる感覚。
そろり、と振り返るとものすごく……本当にものすごく睨みつけている翼宿と目が合った。
「……や、やぁ……翼宿……もう気づいたの?移動早いね」
「お前はぁ………」
「……お、怒んないで……」
「怒るわ!!!ボケェ!!!」
あまりの声の大きさに肩が飛び上がった。
び、びっくりするなぁ。
「1人で出てきて心配されないと思ったのか?」
「軫宿……ごめん」
「何をしようとしてたのだ」
「……それは……」
「早う言わんかい!!」
「ど、怒鳴られちゃ言いたいことも言えないわ!と言うか、馬に乗せて!」
「なんやて?」
もうこの際、怒られても怒鳴られてもいい。馬がいて、馬を扱える人がいるのに手を借りないでどうする。
「鬼宿の実家に行きたいの!!」
「はぁ!?」
「鬼宿の家……あの家族に何かあるのか?」
「早くあの人たちに会いたいの」
翼宿に井宿。軫宿もいる。
これはもしかしたら……救えるかもしれない。
「お願い!早く連れて行って!!!」
「そんならそーと、早う言わんかい!ほら、乗りィや!」
「ごめん、ありがと!」
「礼はあとやで。井宿も軫宿もええやろ!」
「だっ」
「ああ」
翼宿が前に座り、その体にしがみつく。
勢いよく馬の腹を蹴ると、ものすごい速さで走り始めた。
「っ、ちょっとこれは速いっ!!!」
「黙っとれ!舌噛むで!」
「翼宿!もう少し乗せてる人を考えるのだ!」
「あまり速いと落馬するぞ!」
うんうん。全くそのとおりだ。
あぁ……体がピョンピョン飛ぶー……。
あ。
「「奏多!!」」
飛んだ。
私は間違いなく、今飛んでいると思う。
ズザザザァァッ………。
ゴロゴロゴロ………。
痛い………。
「ま、まじかいな……」
「だから言ったのだ!奏多の運動能力の無さをナメてるのだ!!」
3人が駆け寄ってくる。地面に見事なまでに投げ飛ばされた私には体中に土や葉っぱがついている。
体を起こすのも力が入らない。心臓がバクバク鳴っていた。
「すぐに治す」
軫宿が力を使おうとする。助かった。いや、でも待って。
ここで使ってしまっては……。
「いい。……使わないで」
「しかし、相当打ち付けたぞ。骨もやられてるかもしれん」
「奏多!治してもらってくれ!堪忍やから……」
「大丈夫。ごめん、掴まりきれなくて」
「すまんかった!ホンマ……ホンマすまんかった!!」
この通りや!と頭を下げてくる翼宿に、体を起こして動けることを見せる。
「ほんと、平気。骨も折れてない。そうでしょ?軫宿」
「そう見えるが……」
「それよりも早く行きたい」
「……井宿。お前の馬に乗せたってくれ」
「翼宿?」
「オレやと加減がわからん」
「わかったのだ。前に乗るといいのだ」
井宿が先に乗って、上からは井宿が手を引っ張りあげ、下から軫宿が腰を持って上にあげてくれた。
無事に井宿の前に座ると、腰に腕が回された。
「本当に落ちるとは……誰も思わないのだ」
「何気にさっき失礼なこと言ったよね……イタタッ」
「ハァ……先が思いやられるのだ」
「す、すまん……奏多……」
「あぁ、もういいの!大丈夫、大丈夫!」
「辛かったらいつでも言え。治す」
「ありがと。でも軫宿の力は……大事にしたいから」
馬が走り出した。先程よりも緩やかに。急いで欲しいのに打ち付けた体が痛い。
ぎゅっと前に身をかがめると、井宿がさらに密着してきた。
「あまり揺らさないようにしているのだが……すまないのだ」
「う、うん。大丈夫……」
耳元で聞こえる声と体を包み込まれているこの状況に、こんな時なのに心臓がうるさく鳴った。