ふしぎロマンス13~痛む心~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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朝から人々は忙しなく動き回り、どこからか陽気な音も聞こえてくる。亢宿が美朱にでも聞かせているのかもしれない。
その音の中に……彼の“気”は入っているのだろうか。
廊下を歩いていると、柳宿が前からやってくる。私に気がつくと、柳宿はニコニコと話しかけてきた。
「おっはよー!奏多!」
「……なんだが嬉しそう」
「えー?だってそりゃーねェ……」
柳宿が何を想像したのか、ニコニコからニヤニヤに変わった。
「……顔、崩れてるよ」
「あら、やだ!せっかく“女”になれるって言うのに、これじゃダメよねー」
「……女?柳宿、何言って……」
「美朱にね、頼んじゃったのよ。あんたもお願いごとあるなら早く言っといた方がいいわよー!」
……いや、召喚出来ないんですけど。そもそも、願い事は3つってことを柳宿は知らないんだろうな。
ウキウキと足取り軽やかに去っていく。今からでも追いかけて、教えてあげるべきだろうか。
「……バカだ。言えないくせに」
何度かこれまでにも試みていた。どうにか伝えることは出来ないか。どうにかここでこれ以上のことが起きないようにはならないだろうか。
だけどいつだって邪魔が入り、頭痛を引き起こし大事なことは言わせてもらえない。
私の中にある黄龍の力とやらが腹立たしい。
刻々と時間はすぎていく。
朱雀廟の前で待っていると、それぞれ中に入っていった。
「なんや、お前が七星やないのが不思議やな」
「そーねェ。最初から一緒だったものね」
翼宿と柳宿がそう言いながら入る。
「奏多。少しこいつのことを頼む」
そう言って軫宿は猫を預けてくる。
「ねぇ、井宿!あたし、ホントに漢字は……!」
「だから大丈夫なのだ。オイラの後に反復するのだー」
「美朱!ほら、行くぞ!」
バタバタと入っていく美朱と鬼宿。そして呆れ顔をする井宿。
「そなたは、ここにいるのか?」
「星宿……」
「そなたもここで祈っていてくれ。無事に終わるように」
「ッ……星宿……!」
行ってしまう。言わなくては……。
もう一度、この身がどうなろうとも……!
「星宿!張宿のことなんだけど……!」
「奏多さん」
振り返ると亢宿が立っていた。
「あっ……」
「張宿、緊張しているようだな」
「はい……少し」
「心配はいらない。こうして皆が揃ったのだ。さあ、参ろう」
「はい。奏多さん………お元気で」
口を挟むことも、言葉を返す間もなく、亢宿は星宿と中に入っていく。
最後の言葉。彼はもう、悟っているのだ。失敗させるのが目的。その後は……彼もまたどうなろうとも……。
「……ッ…………」
私は駆け出した。まだ、あきらめない。
諦めたくない!
まだ……きっと、出来ることがあるはず。もしかしたら今、近くにいるかもしれない!
「そこ!何をしている!!」
「ここを通してください。星が知らせたんです。このままだと……」
「ええい!子供がごちゃごちゃと!!」
門前で兵が声を上げている。当たりだ。必死に走り寄った。
「待って!!」
「こ、これは奏多様。如何なされましたか」
「その子は……張宿よ!」
“張宿”と呼んだことで、その子も私も驚きの表情を浮かべる。
い、言えた……。
「張宿、様ですと……?しかし、張宿様なら既に……」
「あなたはおわかりになるのですね。僕は王道煇(オウドウクン)。七星名は張宿と申します」
そう言って、足の甲を見せる。しっかりとそこには“張”の文字が浮かび上がっていた。
「この子は連れていきます」
「あっ、お待ちを!奏多様!!」
制止の声を完全に無視して張宿の手を引き、朱雀廟へと走る。本当に、この世界に来てから走ってばかりだ。
張宿もやはりまだ子供の体。私のように走りが遅い。
逆に子供と同じ速さで走っている自分に少しばかり泣けてくる。
朱雀廟につく頃には息も上がってしまったが、張宿はいち早く中へと入っていった。
間に合って……!
あとはもう、念じるしかない。でもそれは……すぐに飛び出してきた人によって絶望へと変わった。
「亢宿……!」
とうとう名前を言えた。口にした時には頭は痛くなかった。もう彼は本性を出したのだ。
目の前をものすごい速さで通り抜けたというのに、一瞬、目が合ったように思えた……。
“さようなら”
そう、言っているような気がした。
鬼宿、翼宿、それから美朱を連れて井宿も追いかけた。
「奏多……あんた、今……なんて言った?」
「柳宿……」
「あんた、あいつのこと……」
柳宿が朱雀廟から出てきて、その体を震わせている。
「柳宿、落ち着け」
「軫宿は黙ってなさい。奏多に確かめたいのよ」
「…………」
柳宿が目の前に来る。その顔は……怒りで目元に涙が浮かんでいた。
この顔にしたのは……私だ。知っていたのに……私は……。
「あんた、あいつが張宿じゃないって、知ってたの?あんたもしかして……裏切ったの?」
それは有無を言わせない声色だった。ぎゅっと手を握りしめると、私は頷いた。
パァンッ………!
「柳宿!よさぬか!」
柳宿は私の頬を叩いた。その目にたくさんの涙を浮かべて。