ふしぎロマンス12~錯誤する想い~
夢小説設定
この小説の夢小説設定ふしぎ遊戯の原作に沿って進むお話。
オリジナル要素も多いです。
七星士よりも上の大人ヒロイン。
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「これとかいいんじゃな~い?はい、持って!」
「えっ、めちゃくちゃ綺麗だけど……」
柳宿の部屋にやってきた私は、半ば強引に次々と服を体に合わせられた。
今、見せてもらってるものなんて、とっても高そうだとすぐにわかる。
「あら、だってそれ星宿様が会いに来てくれる時に着る服だもの。綺麗でトーゼンじゃない。……着てないし」
着てない。
あまりにも小さく呟くから聞き逃すところだったけれど、確かに聞こえた。
柳宿は後宮に入ったのに、星宿は通わなかった。そう言っていなかっただろうか。
「……柳宿が着てよ」
「やーよ。もう着ないわ、これも。あ、これも!はい!これもあげるわ!」
「ちょっ……柳宿っ……どうしたの?」
バサバサと目の前に置く、柳宿の腕を掴む。近くに柳宿の真剣な顔があった。
「柳宿……?」
「あんたって落ち込んでンの似合わないわ」
「………へ?」
「ずっと思いつめた顔しちゃって……もう少し楽に考えなさいよ」
「楽に……」
「綺麗な服を着て、お化粧するの。髪も結い上げて、美味しいお酒でも飲んで、今を楽しみなさい」
「柳宿……」
間近に見えるこの人は、本当に私よりも10も下の子なんだろうか。
この世界の子たちはみんな、意志がしっかりしている。
ふっ、と笑うと肩の力を抜いた。
「じゃ、着てみよっかな?」
「いいわねー、ついでだし美朱も呼んじゃいましょうよ!」
「それ、いいー!柳宿も今日は女のコね!」
「あたしはいいわよ」
「ダメダメ!美女3姉妹になるんだからー!長女の貫禄見せてあげるわ」
柳宿が美朱を呼んできて、高めの笑い声が響き渡った。
「あ、やってるやってるー!鬼宿ー!」
ひらひらと衣を揺らせながら美朱が食事処に入っていく。七星たちはすでに集まって祝い酒を飲んでいた。
この祝い酒は確か、星宿がみんなにと用意したらしいけれど……でも、なんだろう。とても……祝いの席のような感じがしない。
……空気重いって。
そんな空気を感じさせないのは美朱と鬼宿の周りだけだった。
「美朱!すげー着飾ってンな!」
「似合う?似合う?」
「お、おー…………似合う」
めちゃくちゃ照れてる……!
恥ずかしそうに顔を背けた鬼宿を見て思わず吹き出しそうになった。
「奏多もそんなカッコするんだな」
鬼宿が目を向けてくる。本当に先程までのことが嘘のよう。
たまにはね、と私もごく自然に笑って答えた。
「けっ………」
……いや、翼宿。聞こえてるから。
「なぁ、あいつさ……すげー目で睨みつけてくんだけど……」
コソッと耳打ちされた。“あいつ”と呼ばれた人はすぐに翼宿だとわかる。
「うん、あれね。気にしなくていいよ。うん、大丈夫。最初だけだよ」
「そーかぁ?なーんか敵視されてるような……あ、それ、簪取れそうだぜ?」
「え、ほんと?」
鬼宿が簪に手を触れて挿しなおそうとした時、翼宿によって思いっきりテーブルに酒瓶が置かれた。
あと少しで割れてしまうんじゃないか、と言うくらいに。
「……そいつに触んなや」
うわー……露骨。わかりやすいくらいに不機嫌オーラ全開。
わからないわけでもないからか、事情を知る者は誰も止めに入らない。
「翼宿……」
「…………」
呼びかけてもムスッとしている。
困り果てる鬼宿と翼宿の変貌ぶりに戸惑う美朱を、翼宿から一番遠い席に座らせた。ひとまずここで食事をとってもらおう。
柳宿に美朱たちの相手を目で頼む。
翼宿を見ればまだ眉間にシワを寄せ、口を固く閉じていた。不機嫌極まりない顔をしている。
まったく……本人よりも傷ついて怒ってくれるんだから。
「翼宿」
「………なんや」
「敵意むき出しにして……鬼宿はあなたの敵?」
「……知らん。敵か味方か……ようわからん」
翼宿は私を見てこなかった。ずっと俯いて、酒の入った杯に目を落としている。
周りに目をやれば井宿も視線を下げ、静かに今の状況を見守っている。
張宿に至っては、とばっちりがもう既に来ていたのか肩身を狭くして、黙々と食べることに専念していた。
井宿……なに傍観決め込んでるのよ。七星士の中で1番上なのに。
じと……と見据えても我関せずと言ったように視線を合わせてこない。
ここを打開できるのは私しかいないようだ。
翼宿に視線を合わせるように、椅子の前にしゃがみ込んだ。
今度は見上げる形になる。これなら俯いてる翼宿とも目が合う。
「邪魔やねん。あっち行っとれ」
「あっちって、鬼宿のとこ?」
「ち、ちゃうわボケ!行ったらアカン!ここにおれ!」
「どっちなのよ」
でもその何の駆け引きもない言葉が、今の私には本当に嬉しかった。
なんやねん、とまだムスッとしている翼宿に、自然に笑みが生まれた。