「悪ぃ、ちょっと通してくれないか。」

捲簾は人ごみを掻き分けながら倒れた女の方へと向かい、彼女の顔を覗き込んだ。

シミ一つない絹の様な白い肌､燃えるような深緋色の花唇、しなやかなまつ毛、優しく爽やかだが何処か官能的な香りがする耶悉茗の香水。

耶悉茗の香水、夜の女王と呼ばれる花の香りはまさに身分の高い貴族の女性がつける香水である。

「(へー…なかなかの美人だな…。)」

捲簾は女を姫抱きして自分の部屋へと向かい始める。

「おい貴様！姫様をどこへ連れて行く気だ！！」

「ちょっとこのお嬢さん借りるぜ、安心しなちゃーんと元いた場所には返すからよ。」

そいじゃあねと手をひらひら振りながら捲簾は激怒している上層部の人間をよそに自室へ向かって行く。

その様子を彼の上司、天界西方軍の総責任者で闘神一族出のエリート軍人敖潤は一瞬足りとも見逃さなかった。



所変わって捲簾は自分の自室にあるベッドに女を寝かせ、彼女を締め付けているコルセットを緩めてやる。

少しずつだが女の顔色は良くなり、規則正しい寝息が聞こえてきた。

捲簾は女が目覚めるのを待ちながら自分の懐から煙草を出し、ガスライターで火をつけその味と香りを堪能する。

高過ぎず低い温度で、完全燃焼させずに、口腔喫煙でキャビンの香ばしい香りを楽しむ。

「(早く起きねぇかな…。)」

2本目が終わろうとしたその時、女が身動ぎをしてゆっくりと瞼を開けた。

「よぉ、起きたか…？」