尾浜勘右衛門の彼女
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――尾浜勘右衛門。私立心葉 学園高等部、二年一組に在籍する生徒である。
人となりは穏やかで、けれど茶目っf気も忘れない一面は、人を惹きつけやすい。尾浜勘右衛門を嫌いだ、と面と向かって言う奴を、少なくとも私は見たことがない。
わりとどんな人とでも朗らかに会話する彼の周りには、自然と人が集まる。しかし、それは何も尾浜勘右衛門自身を目的としている者だけではない。
ここで紹介しよう。彼には特に仲の良い友人が四人いる。同じ一組で、寮の同室だという久々知兵助。隣の二組の、不破雷蔵、鉢屋三郎、竹谷八左ヱ門。この四人もまた有名人なので、彼らに何かしらの理由でコンタクトを取ろうとする生徒は一定数存在する。
久々知兵助は真面目で、意外と愛想は悪くない。だが、たまに豆腐のこととなるとヒートアップしやすいので、そのテンションについていけず敬遠されるときがある。鉢屋三郎は天才が服を着て歩いているような奴で、芸能人かと思うほど注目の的になることも多々あるほどだ。しかしこの男、従兄弟だか又従兄弟だかの不破雷蔵への友情が非常に重いため、不破に変なちょっかいをかけようものならモンペのように豹変する一面がある。なお、優柔不断だが温厚な不破雷蔵、生き物に優しい快活な竹谷八左ヱ門はまだ話しかけやすい方との噂だが、初対面ともなるときっかけが掴めない生徒もいるらしい。つまり、長々と説明したが要約すると『有名人には皆気軽には話しかけづらい』のだ。
さて、話を戻そう。尾浜勘右衛門だって四人と同じく有名人だ。しかし、この男、話しやすい。しかも、非常にコミュニケーション能力が高い。あるときは離れたところから黙って遠慮がちにチラチラと鉢屋へ視線を投げかけていた真面目そうな男子生徒に気づき、「あれ?どうしたの」と近づいていき用件を自然に聞き出す。またあるときは不破に告白しようと鉢屋の不在のタイミングを狙っていた女子生徒に話しかけられ、それがきっかけでいつの間にか『難易度の高い恋のお悩み相談なら尾浜まで』と一時期頼りにされてしまうなど実績は様々にある。
「まじ?勘ちゃんありがとう〜」
「助かったよ、尾浜ー。竹谷、虫の脱走のせいで走り回ってて居場所わかんなくてさあ」
「ねね、尾浜くん帰り一緒にカラオケいかない?奢るからさ〜」
「はー、勘ちゃん可愛い〜。まじ癒し〜」
そう、今日も今日とて尾浜勘右衛門は人に囲まれている。隣のとなり、その斜め後ろに座る私の席の近くまで尾浜勘右衛門を囲む人の輪が迫っている。今日は、特に多い気がする。なんだか圧を感じてしまう。――ええい、あまりこっちに寄るな。程良い空間が狭くなるだろうが。
「ねえ行こうよ勘ちゃん〜。映えるパンケーキもあるからさあ」
「あはは、誘ってくれてありがとうな。でもごめん、俺行けないや」
「えー!何でよ」
「用事があるからに決まってるだろ〜?また今度誘ってよ。クラスの皆で打ち上げのときでも行くのはどうかな?」
頬を膨らませてむくれた女子生徒に再び笑顔で「ごめんごめん」と爽やかに謝れば、女子生徒は若干不服そうにしながらも諦めたようだった。そのやり取りに周りが和やかに笑う中、尾浜勘右衛門は「よいしょ」と言いながら席から立ち上がった。
「じゃっ、俺今日は帰るから。みんなまた明日ね!」
一部の女子から、「きゃあ」という悲鳴のような声が上がった。なんとこの男、周りを囲んでいた生徒達に向けて振り向きざまにウインクなんかしやがったのだ。アイドルか?ファンサなのか?
思わず目を見開いて口を開けそうになってしまったが、いかんいかんと気を引き締めて何の変哲もない普通の表情を維持することに努める私の横を、件の男が通り過ぎる。その瞬間、ピコンとスマホから通知音が鳴った。画面を見れば、トークアプリに一件のメッセージが届いている。
『裏門で待ってるよ』
その後に続く笑顔で手を振っているゆるキャラのスタンプを見た私は、人知れずため息を吐いた。
◆ ◆ ◆
職員室に寄る用事があったので、スタンプの送信者に少し待たせるが良いかと返信をする。忙しいなら帰ってくれてもいいと書けば、すぐに返事が返ってきて『やだ。待ってる。急がなくていいからね』と私のささやかな抵抗はやんわりと断られてしまった。
用事もすぐに終わってしまい、私は足取りを重くしながら裏門へと向かった。軽くじゃないのかって?人目が気になるんだよ、こっちは。心臓に毛が生えているような人間ではないのだ。
こそこそと周りを気にしながら、さながら忍者の如く、私は建物の影伝いに移動する。ようやく裏門の近くに辿り着くと、そこには人っ子一人いなかった。ほっと胸を撫で下ろす。しかし、すぐに疑問を浮かべる。待ち人は、どこだ?
「お帰り」
いきなり背後で声がして、私は思わず「ひっ」と悲鳴じみた声を上げてしまう。少しバランスを崩して後ろへ傾いた身体を、誰かが支えてくれた。
「ごめんごめん。驚かせちゃった?」
「……何処にいたの。全然、気配なかったんだけど」
振り向けば、そこには一人の男子生徒が笑って立っていた。“うどん”のようだと評される毛先が丸っこい特徴的な髪、真ん丸な目、いたずらが成功して喜ぶ子供のような表情をした彼の名は。
「名が忍者みたいに忍んで来たから、俺も久々にちょっとやってみようかなって。気配断ち過ぎたね」
「久々って……何よ、小学校時代にでも戻ったつもりだったの?どれだけかくれんぼ上手だったの……勘右衛門」
そう。先ほど教室で人に囲まれていた件の人気者。尾浜勘右衛門、その人だ。
勘右衛門は少し考える素振りをして、「んー、プロだったからね」とまたもや片目をつぶってみせる。ウインクを安売りするな。
「あんたは自分のウインクの恐ろしさを考えた方がいい……」
「えー、愛嬌があっていいねって寮母さんにはよく言われるよ?」
「寮母さんは、寮母さん目線だから。好意を持ってる同年代の女子には、インパクトが強過ぎるかもしれないってこと」
「ふーん。じゃあ、名にも効果抜群だったってこと?」
「……自惚れんな、ばか」
どこか少し意地悪く笑う勘右衛門は、先ほど人の輪の中にいたときと少しだけ雰囲気が違って見えた。のびのびとしているように感じるのは、私の勝手な推測だろうか。
「ねえ、カラオケ断って良かったの?あの子、結構本気で誘ってたみたいだけど」
「なんで?そもそも俺は名と一緒に帰る予定だったし。先約があるのにドタキャンする奴なんか最低でしょ」
それはそうだけれども、と言葉を続けようとすると、勘右衛門はいきなり私の手を取った。引き寄せられて、強制的に勘右衛門との距離が縮まる。
「ちょっ……」
「――それよりも、“彼女”との時間を確保する方が、よっぽど大事じゃない?」
その言葉に、一瞬思考が止まる。言葉に詰まっていると、勘右衛門は拗ねたように口を尖らせた。
「ね、早く帰ろうよ。買い物してる時間、なくなっちゃうよ?」
「……本当に付き合ってもらっていいの?私が欲しいだけで、あんたは興味ないかもしれないのに」
「そうとは限らないんじゃない? 意外に俺の欲しいものがあるかもしれないし」
勘右衛門は「じゃ、行こっか」と言って歩き出した。未だ、手は繋がれたままだ。
「か、勘右衛門!下校する生徒に見られたら……」
「俺はいいよ?でも、名が困るなら……うん、やってみるか。大丈夫だよ、さっきの俺、全然気配なかったでしょ?名を連れてても、誰にも気づかれないで移動するくらい、できると思うから」
「な、何だその謎の自信は……あんたは凄腕のスパイじゃないでしょうが!」
「そうかな?」
まあ見ててよ、と爽やかに笑う勘右衛門に、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。
――そう。もうお気づきのことだろう。
私、名は――尾浜勘右衛門の、『彼女』だ。
どうして、こうなったのか。こんな風に尾浜勘右衛門と過ごすことになるなんて、あのときの私は思いもしなかったのだ。だって――本当に付き合えるだなんて、欠片も考えていなかったのだから。
(続く)
人となりは穏やかで、けれど茶目っf気も忘れない一面は、人を惹きつけやすい。尾浜勘右衛門を嫌いだ、と面と向かって言う奴を、少なくとも私は見たことがない。
わりとどんな人とでも朗らかに会話する彼の周りには、自然と人が集まる。しかし、それは何も尾浜勘右衛門自身を目的としている者だけではない。
ここで紹介しよう。彼には特に仲の良い友人が四人いる。同じ一組で、寮の同室だという久々知兵助。隣の二組の、不破雷蔵、鉢屋三郎、竹谷八左ヱ門。この四人もまた有名人なので、彼らに何かしらの理由でコンタクトを取ろうとする生徒は一定数存在する。
久々知兵助は真面目で、意外と愛想は悪くない。だが、たまに豆腐のこととなるとヒートアップしやすいので、そのテンションについていけず敬遠されるときがある。鉢屋三郎は天才が服を着て歩いているような奴で、芸能人かと思うほど注目の的になることも多々あるほどだ。しかしこの男、従兄弟だか又従兄弟だかの不破雷蔵への友情が非常に重いため、不破に変なちょっかいをかけようものならモンペのように豹変する一面がある。なお、優柔不断だが温厚な不破雷蔵、生き物に優しい快活な竹谷八左ヱ門はまだ話しかけやすい方との噂だが、初対面ともなるときっかけが掴めない生徒もいるらしい。つまり、長々と説明したが要約すると『有名人には皆気軽には話しかけづらい』のだ。
さて、話を戻そう。尾浜勘右衛門だって四人と同じく有名人だ。しかし、この男、話しやすい。しかも、非常にコミュニケーション能力が高い。あるときは離れたところから黙って遠慮がちにチラチラと鉢屋へ視線を投げかけていた真面目そうな男子生徒に気づき、「あれ?どうしたの」と近づいていき用件を自然に聞き出す。またあるときは不破に告白しようと鉢屋の不在のタイミングを狙っていた女子生徒に話しかけられ、それがきっかけでいつの間にか『難易度の高い恋のお悩み相談なら尾浜まで』と一時期頼りにされてしまうなど実績は様々にある。
「まじ?勘ちゃんありがとう〜」
「助かったよ、尾浜ー。竹谷、虫の脱走のせいで走り回ってて居場所わかんなくてさあ」
「ねね、尾浜くん帰り一緒にカラオケいかない?奢るからさ〜」
「はー、勘ちゃん可愛い〜。まじ癒し〜」
そう、今日も今日とて尾浜勘右衛門は人に囲まれている。隣のとなり、その斜め後ろに座る私の席の近くまで尾浜勘右衛門を囲む人の輪が迫っている。今日は、特に多い気がする。なんだか圧を感じてしまう。――ええい、あまりこっちに寄るな。程良い空間が狭くなるだろうが。
「ねえ行こうよ勘ちゃん〜。映えるパンケーキもあるからさあ」
「あはは、誘ってくれてありがとうな。でもごめん、俺行けないや」
「えー!何でよ」
「用事があるからに決まってるだろ〜?また今度誘ってよ。クラスの皆で打ち上げのときでも行くのはどうかな?」
頬を膨らませてむくれた女子生徒に再び笑顔で「ごめんごめん」と爽やかに謝れば、女子生徒は若干不服そうにしながらも諦めたようだった。そのやり取りに周りが和やかに笑う中、尾浜勘右衛門は「よいしょ」と言いながら席から立ち上がった。
「じゃっ、俺今日は帰るから。みんなまた明日ね!」
一部の女子から、「きゃあ」という悲鳴のような声が上がった。なんとこの男、周りを囲んでいた生徒達に向けて振り向きざまにウインクなんかしやがったのだ。アイドルか?ファンサなのか?
思わず目を見開いて口を開けそうになってしまったが、いかんいかんと気を引き締めて何の変哲もない普通の表情を維持することに努める私の横を、件の男が通り過ぎる。その瞬間、ピコンとスマホから通知音が鳴った。画面を見れば、トークアプリに一件のメッセージが届いている。
『裏門で待ってるよ』
その後に続く笑顔で手を振っているゆるキャラのスタンプを見た私は、人知れずため息を吐いた。
◆ ◆ ◆
職員室に寄る用事があったので、スタンプの送信者に少し待たせるが良いかと返信をする。忙しいなら帰ってくれてもいいと書けば、すぐに返事が返ってきて『やだ。待ってる。急がなくていいからね』と私のささやかな抵抗はやんわりと断られてしまった。
用事もすぐに終わってしまい、私は足取りを重くしながら裏門へと向かった。軽くじゃないのかって?人目が気になるんだよ、こっちは。心臓に毛が生えているような人間ではないのだ。
こそこそと周りを気にしながら、さながら忍者の如く、私は建物の影伝いに移動する。ようやく裏門の近くに辿り着くと、そこには人っ子一人いなかった。ほっと胸を撫で下ろす。しかし、すぐに疑問を浮かべる。待ち人は、どこだ?
「お帰り」
いきなり背後で声がして、私は思わず「ひっ」と悲鳴じみた声を上げてしまう。少しバランスを崩して後ろへ傾いた身体を、誰かが支えてくれた。
「ごめんごめん。驚かせちゃった?」
「……何処にいたの。全然、気配なかったんだけど」
振り向けば、そこには一人の男子生徒が笑って立っていた。“うどん”のようだと評される毛先が丸っこい特徴的な髪、真ん丸な目、いたずらが成功して喜ぶ子供のような表情をした彼の名は。
「名が忍者みたいに忍んで来たから、俺も久々にちょっとやってみようかなって。気配断ち過ぎたね」
「久々って……何よ、小学校時代にでも戻ったつもりだったの?どれだけかくれんぼ上手だったの……勘右衛門」
そう。先ほど教室で人に囲まれていた件の人気者。尾浜勘右衛門、その人だ。
勘右衛門は少し考える素振りをして、「んー、プロだったからね」とまたもや片目をつぶってみせる。ウインクを安売りするな。
「あんたは自分のウインクの恐ろしさを考えた方がいい……」
「えー、愛嬌があっていいねって寮母さんにはよく言われるよ?」
「寮母さんは、寮母さん目線だから。好意を持ってる同年代の女子には、インパクトが強過ぎるかもしれないってこと」
「ふーん。じゃあ、名にも効果抜群だったってこと?」
「……自惚れんな、ばか」
どこか少し意地悪く笑う勘右衛門は、先ほど人の輪の中にいたときと少しだけ雰囲気が違って見えた。のびのびとしているように感じるのは、私の勝手な推測だろうか。
「ねえ、カラオケ断って良かったの?あの子、結構本気で誘ってたみたいだけど」
「なんで?そもそも俺は名と一緒に帰る予定だったし。先約があるのにドタキャンする奴なんか最低でしょ」
それはそうだけれども、と言葉を続けようとすると、勘右衛門はいきなり私の手を取った。引き寄せられて、強制的に勘右衛門との距離が縮まる。
「ちょっ……」
「――それよりも、“彼女”との時間を確保する方が、よっぽど大事じゃない?」
その言葉に、一瞬思考が止まる。言葉に詰まっていると、勘右衛門は拗ねたように口を尖らせた。
「ね、早く帰ろうよ。買い物してる時間、なくなっちゃうよ?」
「……本当に付き合ってもらっていいの?私が欲しいだけで、あんたは興味ないかもしれないのに」
「そうとは限らないんじゃない? 意外に俺の欲しいものがあるかもしれないし」
勘右衛門は「じゃ、行こっか」と言って歩き出した。未だ、手は繋がれたままだ。
「か、勘右衛門!下校する生徒に見られたら……」
「俺はいいよ?でも、名が困るなら……うん、やってみるか。大丈夫だよ、さっきの俺、全然気配なかったでしょ?名を連れてても、誰にも気づかれないで移動するくらい、できると思うから」
「な、何だその謎の自信は……あんたは凄腕のスパイじゃないでしょうが!」
「そうかな?」
まあ見ててよ、と爽やかに笑う勘右衛門に、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。
――そう。もうお気づきのことだろう。
私、名は――尾浜勘右衛門の、『彼女』だ。
どうして、こうなったのか。こんな風に尾浜勘右衛門と過ごすことになるなんて、あのときの私は思いもしなかったのだ。だって――本当に付き合えるだなんて、欠片も考えていなかったのだから。
(続く)
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